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原材料の値上がり-中国製造業成長の悩み

2022年初め、中国国内製造業はまた一つの幻のスタートを迎えた:2022年1、2月の中国製造業PMIはそれぞれ50.1%と50.2%で、全体的に臨界値をやや上回ったが、低下の傾向にあった。


 

2022年初め、中国国内製造業はまた一つの幻のスタートを迎えた:202212月の中国製造業PMIはそれぞれ50.1%50.2%で、全体的に臨界値をやや上回ったが、低下の傾向にあった。国内製造業は一定期間の下落圧力に直面すると予測する人もいる。確かに、中国製造業PMI3月に直接49.5%に低下し、臨界値を下回った。生産指数(49.5%)と新規受注指数(48.8%)は、どちらも20203月以来最低である。

 

歴史は常に驚くほど似ている。2020年の「恐怖」は今でも覚えられ、新たな衰退はまた次から次へと現れた。国内製造業はまるでジェットコースターに乗ったようで、目を上げてみるとまだ「谷底」にあった。異なるのは、最近のロシアウクライナ紛争が依然として深刻であることに加え、国際先物取引市場がよく変化している為、中国製造業の新たな不況が2020年に比べて更に複雑になった。然し、状況どのように変化しても基礎となるロジックは2つしかない:需給の不均衡とインフレ。この基礎となるロジックに基づき、多くの人は新型コロナの影響に注目しながら、製造業のホットワードである原材料の値上がりに言及した。

 

不完全な統計によると、202247日まで、A株に上場している製造業関連上場企業3000社近くの中で、半分近くが原材料の値上がりのショックについて直接的または間接的に言及した。「コンセントのリーディングカンパニー」と呼ばれる公牛集団に於ける2021年の連結決算によると、プラスチックや銅などのバルク原材料の値上がり等により、同社の電気接続事業の粗利益率は前年比6.18%低下した。それと同じく、中国国内の調理器具業界に於けるリーディングカンパニーであるSuporの主要調理器具事業の粗利益率は、2021年の原材料価格の大幅で急速な上昇などの影響で前年比5.15%低下した。今の状況では、大型・小型の製造業企業の希望にかかわらず、原材料の値上がりは避けられない。産業チェーンの根が絡み合っている為、各社間は緊密な関係を持っている。

 


産業チェーンに於ける利益の再分配の支点を変える

 

原材料の値上がりは新型コロナ後の産物ではなく、製造業ひいては国民経済全体の中で、原材料の値上がりは周期的な現象にすぎず、それは中国製造業のモデルチェンジを伴い、製造業の産業構造を再構築した。2022年今回の値上がりは、2021年初めから現在まで長く続いており、米国のQEの終了、ロシア・ウクライナの後続の停戦の可能性、値上がりによる消費需要の抑制に伴い、2022年下半期または2023年上半期に段階的なピークに達し、その後徐々に「低下」すると予想される。

 

このような背景の下で、川上原材料の値上がりは川中・川下コストに影響を与え、さらに利益にも影響する。原材料購入価格(PPIRM)のデータによると、20219月まで、鉄金属、非鉄金属、燃料動力原料、化学工業原料の価格が大幅に上昇し、それぞれ20.9%、20.1%、14.1%、12.3%に達した。これにより、2021年の川上原材料の採掘と加工業界の利益率は上昇し、2020年末の18.19%から20218月の31.6%に上昇した。一方、川中・川下の設備製造、消費財製造、エネルギー供給業界の利益は圧迫され、利益率は2020年末の34.47%21.10%14.89%から20218月の28.50%19.42%11.16%に低下した。その中で、設備製造業界の利益率は3カ月連続で低下した。そしてその傾向は2022年まで続いた。

文本框: 製造業に於ける工業企業の利益割合image.png

(データ出所:公開データ整理)

 

中国の製造業がバリューチェーンのより高いレベルへの移行、業界構造の絶え間ない最適化に伴い、より多くの製造業メーカーは原材料の値上がりによるコストへの圧力に積極的に対応した。多くのメーカーが採用している方式は「コスト移行」で、即ち川下向けに値上げする方式である。これに対して、製造業のプレートごとに異なる値上げの移転能力が現れ、具体的には:原材料メーカー>部品メーカー>末端メーカー>設備メーカー。各プレードに於ける値上げの移転能力の大きさは、それぞれのプレードの製品の価格設定方式、業界の景気、メーカーの価格交渉能力等の多くの要素によって決定される。

 

 

コスト移行のドミノ

 

「コスト移行」を最初に実行するのは間違いなく川中設備メーカーである:2020-2021年の値上がりサイクルで、川中設備メーカー全体の利益は5.97%ポイント削減された。産業チェーンの分布を見ると、川中設備メーカーの圧力は主に川上部品メーカーの値上げによるものである。自動化部品メーカーを例にとると、2021年から原材料の値上がりやチップ供給の逼迫による自動化製品の値上げブームが始まり、2022年まで続いている。上位メーカーは内資と外資に関わらず値上げしており、内資はInovanceを初めとするインバーターのカスタマイズされた非標準製品とサーボのカスタマイズされた非標準製品の価格は2022年の第1回の「値上げブーム」でいずれも5%-8%上昇した。外資はSiemensを初めとする2021年からLOGOからET200SまでのPG製品群に於ける最低調整価格は5%で、最高調整価格は15%である。Siemensの納期も一定の影響を受け、その人気製品PLC1500の納期は半年ぐらい延期され、一旦自動化の生産ラインにPLCシステムのハードウェア故障が発生すると、川中設備メーカーはSiemensがそれを修理することを待つしかない。一部の自動化部品メーカーはバンドル販売を選択し、リベートを減らし、「新品交換-別の方法で値上げする」等の方式でコスト圧力を緩和するが、全てはコスト移行のルーティーンである。

 

2022年中国自動化市場に於ける主要メーカーの製品の値上げ状況-一部

image.png

(データ出所:MIR DATABANKデータ整理)

 

産業チェーンに於ける川下産業の末端メーカーは、川中設備メーカーとユーザーとの間でトレードオフを考えた後に値上げを行っており、新エネルギー自動車、半導体、太陽光発電等の人気ある分野も同じである。新エネルギー自動車を例にとると、20211221日以降、ニッケルの見積りは、従来の15万元/トン未満から、2022320日の22万元/トンまで上昇し、最高の時は30万元/トンを超えた。コバルトの華東市場見積りは49万元/トン未満から56.6万元/トンまで上昇した。リン酸鉄リチウムの生産価格は、従来の10万元/トン未満から、15万元/トンまで上昇し、上昇幅は60%に近く、これは当然一時的な資本投機の要因も存在した。時間の経過と共に、動力電池の値上がりによるコスト圧力は徐々に新エネルギー車の完成車に影響していた。20223月以降、20社近くの新エネルギー車メーカーは値上げを発表し、約40のモデルが関与された。殆どの自動車企業は、価格全体の上げ幅が1万元以内に抑制した。その中で、小鵬汽に於ける全部のシリーズの値上げ幅は1.01万から3.26万までの間にある為、小鵬汽の取締役である何小鵬氏は値上げ幅は想像を超えると考えた!

 

 

製造業企業は自社の実力を発揮

 

直接的な「コスト移行」に加え、受動的な対応方式は「コストコントロール」である。各企業は、管理費や販売費を削減することを通じ、節約した資金を市場開拓や技術開発に投入した。一部の業界はまた、早めに在庫を準備すること等の経営戦略の調整を通じ、川上のコストショックを緩和した。

 

2020年末、中国企業は日本、韓国、中国台湾等から合計320億ドル近くのコンピューターチップ製造設備を購入し、輸入額は2019年に比べて20%増加した。Huawei等の会社がアメリカの制裁発効前に関連製品の輸入に力を入れて買い占めている情勢の下で、2020年中国のコンピューターチップの輸入額は3,800億ドル近くに急騰し、同年の輸入総額の約18%を占めた。

 

コンピュータチップは一例ではなく、工業企業の利益の完成品と原材料/中間製品の在庫を分析すると、最終製品の在庫消化が明らかで、原材料の数量は製品在庫を超え続ける代表的な業界を見つけることができ、これらの業界はコストの短期的かつ急速な上昇の影響を抑えることができる例えば製紙、化学原料と製品、化学繊維、非金属鉱物製品、紡績、服装等。一部の業界では既に半年以上の原材料と中間製品の在庫が蓄積され、このような業界はコスト上昇に対応するのに余裕がある。製紙業界を例にとれば、商品の購入に支払うキャッシュフローは2020年以来引き続き増加し、業界のリーディングカンパニーである中順洁柔は2020年に原材料を積極的に貯蔵しており、2021Q1に商品の購入と労働サービスの受け入れに支払われる現金は前年比53.0%増の13.6億元に達した。

 

先物市場での取引も、現在の川中企業が製品と原材料価格差異を確定する1つの方法である。2021年、コモディティの価格は持続して上昇し、川中製造業界に於ける多くの企業は粗利益率の安定を維持するために、関連原材料と製品の生産経営のヘッジ事業を展開し、主にコモディティの原油、石炭、アルミニウム、銅等を原材料とする化学工業、電気設備等の業界に集中すると発表した。化学工業業界を例にとると、化学繊維業界の上位企業である恒力石化、栄盛石化、東方盛虹等は、原油と製品価格の大幅な変動による同社への不利な影響を回避するために、2021年にはいずれも同社の産業チェーンに関連する先物の種類に対してヘッジすることを計画した。

 

 

最大の敗者は誰?

 

2021年通年の多い消費量に伴い、大手各社の在庫は殆どなくなり、ヘッジは一時的なソリューションしかなかった。価格変動に対して、今後の製造業には一つの傾向がある:産業チェーンの統合。一部の上位メーカーは市場の不確定要素の影響を減らすために、産業チェーンの川上・川下で投資事業展開又は買収合併を行う。現在、注目を集めている動力電池企業は既に産業チェーンの川上で事業を展開し始めた。CATL2021913日、江西省宜春市に135億元以内を投資し、CATLの新型リチウム電池生産製造拠点(宜春)プロジェクトを建設する計画と発表した。宜春は「アジアリチウムの都」と呼ばれ、世界最大のレピドライト鉱を保有しており、酸化リチウムの利用可能埋蔵量は約250万トンであることが明らかになった。それまで、国軒高科も宜春で事業を展開した。当然、産業チェーンが全て上位メーカーにコントロールされていれば、優位性ばかりではない。一部の上位企業は、川上・川下産業発展の特徴を理解せず、盲目的に併合したり、事業展開したりする為、関連産業は経営不振に陥り、最終的に破産した。一方、産業チェーンの統合は上位企業のリスク回避を助けると同時に、業界独占グループを形成するリスクも存在し、彼らは障壁を設けることにより、新規参入プレイヤーを排斥する為、業界は活力と技術革新能力を欠く。

 

中小企業にとっては、間違いなくこの値上げブームの中で最大の敗者であり、中国郵政儲蓄銀行は2021年にランダムサンプリング法を採用し、2746の中小企業(中小企業法人と個人事業主の2種類を含む)を対象として調査した。調査の結果によると、サンプルの範囲内で、47.92%の企業の原材料価格は2021年同期よりある程度上昇した(業界と地域によってパフォーマンスに違いがある)。51.02%の企業の利益パフォーマンスとキャッシュフロー状況はいずれも大きな影響を受けた。製造業の原材料コストの割合が最も高く、パフォーマンスが最も敏感で、地域間のパフォーマンスの差が比較的大きかった:67.74%の企業は既存の原材料在庫は3ヶ月も支えられないと表明し、受注不足と注文を受ける自信がない二つの困難に直面し、建築業の「注文を受ける自信がない」が最も際立った。原材料価格が現在の水準を維持すれば、経営を継続するのは難しいと答えた企業は20.28%である。

 

中小企業で長年の調達に従事しているスタッフは、「一つ目は原材料価格が上昇したが、顧客向けの価格は上昇させない。二つ目はエンドユーザーが四半期ごとの値下げを求める。三つ目はサプライヤーが値下げできない場合、会社は調達スタッフがサプライヤーに割引を求めるという三つの難題に直面していると文句を言った。価格交渉力が不足している為、値上げブーム時、中小企業、特に低付加価値の中小型設備メーカーと末端メーカーのコスト移行は上位企業ほどスムーズではなく、川上原材料の値上がりからの衝撃は自分で対応するしかない。一部の川上サプライヤーは大口顧客を保護したり、重要な顧客保護リストを作成したりし、適切に割引を与えるが、中小顧客は「コスト移行」の影響に直面しなければならない。以上の状況の下で、中小企業の中には倒産や併合が発生する可能性があり、各業界も新たな変化を迎える。

 

最後に

 

2022年に中国製造業市場が直面する挑戦は更に複雑になり、更に多くのコントロールできない要素は徐々に市場の行方を主導しており、かつてない試練に直面し、原材料の値上がりは中国製造業にとって試金石になるかもしれない。過去、改革開放の初期、グローバル化の過程、そして金融危機に対応する時、中国の製造業は値上がりの苦しみを経験した後に生まれ変わった。今回、製造業のモデルチェンジとグレードアップの節目に直面し、このような複雑な国内外の情勢の下で、中国の製造業が生まれ変わられるかどうかは、中国の製造業企業が考えるべき課題である。勿論、製造業内部の競争が非常に激しくなり、業界構造も再確立され、誰が勝つのか注目している。