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「46mm」円筒形電池、ローカルメーカーはどう考えるか?

イーロン・マスク氏が推奨する「46mm」円筒形電池、ローカルメーカーはどう考えるか?

ベルリンからの脱出


「46mm」電池の台頭はTeslaの牽引によるもの。その中で、メインの4680電池は2020年にTesla電池デーでデビューして以来、業界の注目を集め、資本に支援された。マスク氏は、4680電池が電池業界を変える存在となり、安全性と性能の両面に於いて、従来の電池の欠点を解決すると主張している。


然し、Teslaが期待していたベルリン工場(4680電池の主要生産拠点になると噂される)は最近不調に陥り、Teslaの非常に複雑な生産技術(円筒形電池の大型化を可能にする電極乾式プロセス)に大きな遅れが生じたため、苦労したマスク氏は、ドイツの工場に電極を生産する設備を残しておく以外の全ての電池生産関連機械を米国に送り返すよう指示した。

 

Teslaの今回の惨敗は、「46mm」電池の発展に暗い影を落とすと同時に、成り行きを見守る業界関係者の自信にも冲撃を与えた。

 


「急速充電」と「電池交換」分野



中国の新エネルギー自動車産業は発展に於ける「ナマズ効果」は特に顕著で、特にTeslaの中国市場参入後は、新興自動化メーカーか従来型自動車メーカーかを問わず、多くの企業が新エネルギー車産業への参入を促した。同様に「46mm」電池の中国市場での発展もこの効果に沿っている。

 

分類では、「46mm」電池は円筒形電池に属する。円筒形電池は初期の中国市場では主にコンシューマーエレクトロニクス分野に使用されていたが、その後、型番の統一、標準化生産程度の高さなどの特徴により、次第に自動車用動力電池の分野に進出してきた。

 

然し、好況は長く続かず、国家の補助金政策により、新エネルギー車の航続距離の問題を解決するため、電池企業が高航続距離、高エネルギー密度の方向へ発展するようになり、CATLのような角型電池企業の市場占有率が急速に高まっている。一方、円筒形電池はエネルギー密度が基準に達しにくいため、市場が圧迫され、一時的に「ゆっくり開発」しかできず、電動工具や電動二輪車などの市場に目を向けている。


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円筒形電池の発展する方法は?一本の道:エネルギー密度を高める。

 

Teslaをはじめとするメーカーは、従来の21mm円筒形電池に加え、次のような技術改善を行っている:

 

1.  材料系/シリコン系負極の改良:より高いエネルギー密度とレート性能を提供し、エネルギー密度は10%~20%向上;

2.  新型電解質の使用:新型リチウム塩の添加により、電解質窓と充放電電圧を高める;

3.  無極耳/全極耳の設計: 低インピーダンス化により、電極と充電率を高める。

 

技術の徐々に改善と2020年の国内政策補助金の削減により、Tesla 4680電池ソリューションが発表され、しかもコスト面で21mm円筒形電池に比べて56%削減した。

 

4680電池という概念が登場したのは、無極耳/全極耳設計による充電率が、「46mm」円筒形電池をEV急速充電に更に対応させるという意外な喜び。「46mm」円筒形電池は完成車メーカー(急速充電技術の追求)の主要な選択肢の一つになりつつある。然し、この変化により、各完成車工場の車種は急速充電か電池交換かをめぐって急速に分かれてきた:

 

充電技術路線に進みたい車種:「46mm」を中心とした円筒形電池を選ぶ傾向がある。

電池交換路線に進みたい車種:ロングブレード/ショットブレードを中心とした大型角型電池を選ぶ傾向がある

 

各完成車メーカーが自社の車をどの路線に進むのが技術的な区分けだけなら、関連製品を提供する変電所事業者や設備サプライヤーにとっては、戦略的な投資選択肢となり、その本質は時間とコストの勝負である:

 

急速充電を選択すると、現在中国国内の公共充電スタンド建設規模は114.7万カ所に達し、既に一定の規模効果を形成しており、規模があれば、コストを抑えていくことになる。また、クロスブランドマルチモデル、マルチ電圧プラットフォームなどの状况は全て共通で、自動車メーカーの協力度が比較的高く、このように標準化の程度が高く、持続可能なビジネスモデルを形成しやすい。

 

電池交換を選択すると、物理的な意味で電力補給時間を大幅に短縮でき、使用感を大幅に向上させることができる。効率を追求し、単回補給電力量が大きい営業車には総合的なコストメリットがある。

 

現在の状況を見ると、異なるモデルの電池交換モードの標準化が進んでいないため、短期的には規模効果を形成しにくい。また、国家政策が変わったばかりで、具体的な細則はまだ発表されておらず、電池交換のビジネスモデルと運営モデルは成熟しておらず、まだ模索期にある。

 

一方、急速充電は標準化が進んでいるため、一般乗用車に比べてコスト面で有利であり、当面は優位に立つとみられている。そのため、急速充電により適した「46mm」の円筒形電池は、今後の市場スペースが十分にあるとみられ、中国国内の各関連メーカーもこの分野を狙っており、「必ずしも今後の主力とするわけではないが、現時点では関連技術の蓄えを持たなければならない」という考え方も非常に明確である。


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ローカルメーカーはどう考えるか?

 


半導体や工作機械など同じように重要な業界と比べ、中国の新エネルギー電池市場の構造は特別。

 

特にこの巨大な市場に於いて、中国ブランドの発言権が非常に強く、外資がTSMCの半導体や日系の工作機械のように中国ブランドを攻撃できる可能性はほとんどない。

 

リチウム電池のリーディングカンパニーであるCATLは既に世界トップの電池企業になり、その次のBYD、SVOLTなども一部の市場を占め、中国の完成車メーカーは全体のコストがローカルよりも遥かに低い場合を除き、再び外資企業の電池製品を選択する理由がない。然し、今のところTeslaなど少数の外資系メーカーを除き、残りは選択される可能性が殆どない。それ以外に、外資企業の供給保証能力も中国市場への進出に大きな影響を与える。一部のメーカーは、外資、特に日韓電池企業の研究開発や生産開始スケジュールが全般的に遅く、供給保証能力が大きなリスクになると考えている。

 

そのため、外資が抜けている新エネルギー動力電池市場では、内資メーカーがより活躍的できる。

 

国内の完成車メーカーは今のところ「46mm」の円筒形電池の導入に慎重になっており、Teslaのような「優れた競争者」も技術的な問題により、自社の4680電池はまだ試作段階にとどまっている。また、EVEなどの一部の中国メーカーは「46mm」円筒形電池に対して楽観的である。

 

中国で最初に円筒形電池に取り組んだ企業の一つであるEVEは、円筒形電池の生産に於いて20年以上の経験を持っている。18650から21700、4680まで、製品の豊富さとイテレーションの完成度は国内同業界のどの企業にも引けを取らない。Tesla Model 3が円筒形電池の成長を牽引する大きな流れを見て、EVEも自社の「46mm」円筒形電池をレイアウトしている:

 

技術の蓄積: EVEは既に三元系円筒技術をレイアウトし、2021年にStoreDotと共同で「46mm」大型円筒形電池路線を開発し、パイロットラインを通して「46mm」大型円筒システム製品の試作を完了したことを発表した。

 

生産能力建設:2023年に20GWh、2024年に40GWhの生産能力に達する予定で、EVEは最近湖北省荊門市に20GWhの46mm電池生産ラインを建設している(投資予定額は44億元)。

 

コストダウン&効率アップ:積極的かつ大胆に産業チェーンの川上で事業展開し、 他の企業(例えば、GEM、Huayou Cobalt、ENERGY TECHNOLOGYなどの各分野のリーディングカンパニー)と合弁会社を設立したり、株式を買収する方式で、リチウム・コバルト・ニッケルなどの鉱物資源や電解質、隔膜、三元正極、銅箔などのリチウム電池材料に投資し、規模効果によるコストダウンを実現した。

 

顧客開拓: EVEはドイツのBMWグループのNeue Klasseシリーズの車種に大型円筒形リチウムイオン電池セルを供給し、BMWが2025年に発売する新シリーズ電気自動車用電池の欧州に於ける主要サプライヤーとなる。

 

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EVEが「46mm」円筒形電池を生産できるのは円筒形電池がその旧来の事業に属しているからだと言えるなら、他の完成車メーカーは「46mm」円筒形電池を生産するのはむしろ「投機」(投資機会、悪い意味ではない)からである。

 

市場競争の角度を見ると、現在円筒形の技術はまだ成熟しておらず、市場参加者は全て同じスタートラインにあり、CATLとBYDのような電池大手でも、円筒形電池に於いて大きな優勢を持っていない。従って、殆どの完成車工場にとって、円筒形は一つの突破口であり、円筒形技術を自分の手に握ることができれば、商業価値など様々な面で主導権が更に大きくなる。

 

技術面では、中国の「46mm」円筒形電池を生産する予定の完成車メーカーも2つのチームに分けられる:1つのチームは独自研究能力を有する完成車メーカーであり、彼らは完成車の車種、定位から、相応する電池パック規格を設計し、上部と下部シェル、放熱などの構造の厚さを減算し、電池セルの高さに変換し、そして関連需要指標を電池メーカーに伝達する;もう1つのチームは独自研究能力を有しない完成車メーカーであり、彼らは電池セルの選択についての発言権が弱く、Teslaが実施する4680サイズソリューションを選択する傾向がある。

 

中国の新エネルギー完成車メーカーは、XPENGのような新興メーカーであれ、GAC、SAICなどの従来型自動車メーカーの背景を持つ新エネルギー車メーカーであれ、「46mm」円筒形電池の研究開発や導入はまだ初期段階にあり、いずれもあまり大きな一歩を踏み出してはいない。

 

XPENGは今後「46mm」の円筒形電池を導入する予定で、導入するサイズは車種の計画によるもの。XPENGは、円筒形電池は航続能力と急速充電能力を向上させるだけでなく、コストダウンと安全性の面でも比較的優位性があると確信している。然し、現在、XPENGはタイムラインが長くなり、この二、三年以内に大きな動きはない。

 

GACは現在、CATLとSVOLTの角型電池を多く使用しており、今後円筒形電池の需要があることを示しているが、具体的な導入時期は明らかにされておらず、GACは中国電池メーカーの「46mm」円筒形電池を導入すると推測されている。

 

SAICは現在、CATLの角型電池を主に使用しており、現在の会社の動向から判断すると、CATL製麒麟電池ソリューションが好ましいと思われる。SAICの今の考え方はシンプル: 円筒形電池はどのホスト工場も諦めない路線であるが、現在は第一ロット後の市場反応と実際のコストパフォーマンスを見てから、円筒形電池の導入を決める必要がある。

 

各完成車メーカーが慎重なのは、様々な配慮が必要だからである。例えば、「46mm」円筒形電池全体のプロセスはまだ成熟しておらず、一部の重要なプロセス(ドライ技術、ダイカット処理など)はまだ改善されておらず、全体の統合効率が低いことを懸念するメーカーもある;現在、市場の主流は角型電池ソリューションで、円筒形電池はまだ明らかな市場需要がないと思っているメーカーもある…

 

現在「46mm」の普及はまだ遅いが、新エネルギー車の走行距離の不安を緩和することは、依然として動力電池業界のメインテーマであるため、円筒形「46mm」電池のエネルギー密度の潜在力と急速充電の先天的な優位性について、各社は依然として楽観視している。少なくとも、新エネルギー自動車産業が急速に発展している今、価値のある試みである。MIR睿工業は中国市場に於ける「46mm」電池の今後の展開を楽観視しており、各主要完成車メーカーへの導入計画によると、「46mm」円筒形電池の市場シェアは2023年に上昇すると予測している。

 

最後に


Teslaが持ち込んだ「46mm」の円筒形電池は、動力電池業界の入り口に立つ「挑戦者」のようなものである。この概念は動力電池業界自体に影響を与えるだけではなく、高ニッケル正極、シリコン系正極、カーボンナノチューブ、電解質、構造部品など、産業チェーン全体を牽引するもので、関連する企業は千社以上になる。従って、「46mm」円筒形電池は、新しい電池ソリューションと言うより、動力電池分野に於ける新しい産業チェーンと言うべきである。

 

そのため、「46mm」円筒形電池の今後の発展は、電池技術そのものだけではなく、動力電池業界が新しい産業チェーンを統合できるかどうかが試されることになり、独立した一環ではなく、業界全体を画策するグローバルなコンセプトが必要とされる。

 

完成車メーカーにとって、「46mm」円筒形電池は羽口。そのため、賢明な競争者は長所・短所を検討し、変化の激しい市場競争で最後の勝利を収めることができる。