業界観測

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Inovanceを始めとする国産メーカーの進撃と外資メーカーの縮小

従来の上位企業が新興企業に「押された」とまでは言わないが、特定の市場では従来の上位企業のトップ地位に挑戦するには十分である。



商業分野は金銭や利益などに関わっているため、バニティフェアと見なされることがよくあり、諺で: 商場は戦場のごとく。市場の発展プロセスの中で、人々は市場で多くの企業が設立されたり、倒産したりすることを見た。倒産の原因は沢山あるが、新興企業に押し倒されたことは一番悲しいことである。現在、リチウム電池製造に於ける自動化製品の分野では、新興企業が従来の上位企業に挑戦する様相を呈している。従来の上位企業が新興企業に「押された」とまでは言わないが、特定の市場では従来の上位企業のトップ地位に挑戦するには十分である。

 


リチウム電池業界は自動化設備業界の発展を推進



中国に於いて、リチウム電池業界の発展は「佳境に入る」過程で、それは民生用電池分野から参入し、スマートフォンを中心としたコンシューマーエレクトロニクス製品に牽引され、出荷数量が大幅に増加した。

炭素排出削減、経済内循環などの概念の更なる普及に伴い、リチウム電池のアプリケーションは徐々に新エネルギー自動車とエネルギー貯蔵分野に普及し、リチウム電池はそのエネルギー密度などの優位性により、関連する川下産業で鉛電池などへの置き換えを実現し、2015-2018年に産業の急成長を実現した。そして、CATL、GOTION、BYDなどの一連のリチウム電池の上位企業が現れた。

その後の2019~2020年、川上の原材料価格の制限と新型コロナの影響により、産業の増加幅は徐々に低下したものの、中国国内のリチウム電池の販売数量も安定して2000億元以上を維持した。2020年末に、川上の原材料価格が下がり、新型コロナの状況が好転して職場復帰・生産再開が加速し、業界がある程度回復し(特に、中国市場に於ける川下の新エネルギー自動車分野の普及率が絶えず高まった)、国内の各電池工場はまた大規模な生産拡大計画を打ち出した。MIR睿工業は、2023年に国内リチウム電池の総販売台数が3000億元を超えると予測している。

2015-2023E中国リチウム電池業界の市場規模(売上高:税込)

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(データ出所:MIR DATABANK

 

それと同時に、欧州に於ける炭素排出関連政策の圧力に駆り立てられた自動車メーカーは次々と新車種と省エネ目標を発表し、欧州の各新エネルギー自動車完成車工場も電池生産の配置を始め、欧州の電池産業チェーンの建設は更に加速し、この過程の中で大量の産業チェーンのギャップが存在している(一部の欧州国家は一定の輸入電池の生産能力の需要がある)。

このような巨大な市場も国産リチウム電池設備の需要を大きく牽引している。先導智能、杭可などの国産リチウム電池製造設備メーカーは次々と台頭し、海外進出の機会を待っており、国際市場でのシェア獲得に向けて準備を進めている。



サーボをめぐる「下克上」



リチウム電池の生産プロセスは複雑で、従来型リチウム電池の生産プロセスは、フロントセクションの混合材料の撹拌、コーティング、ロールプレス、ミッドセクションの電池セル製造、組立、バックセクションの充電放電・容量選別から、電池パックのモジュール/PACKまで、および関連プロセスのテスト、物流輸送などのプロセスで、十数種の自動化設備に関わり、しかも各類の設備の背後には多くの設備メーカーが供給しており、市場競争は比較的激しい。

現在、先導智能、利元亨、海目星などの上位設備メーカーは全てライン全体の納品能力を備えており、他のメーカーは一部のプロセスセクション、設備セグメントに優勢がある。例えば、杭可はバックセクションの充電放電・容量選別設備の分野で比較的優れており、超業精密はミッドセクションの液体充填機などの組立設備で、新嘉拓は先端のコーティング装置などの設備の分野で競争力が比較的強い。

このような競争の激しい分野で、これらの設備メーカーはどうやって勝ち抜くのでしょうか?その重要な要素の1つは、設備に搭載されている自動化部品(サーボ、PLC、インバーター、HMIなど)の性能が優れているかどうかである。2021年、リチウム電池製造の設備部品市場は40億元以上の規模に達した。このように種類が多く、しかも規模が大きなリチウム電池製造設備の自動化部品市場の中で、サーボ製品のアプリケーションは一番多い。概算すると、従来型リチウム電池の生産設備(一体化設備を除く)に於けるサーボの使用数量は約85-125個で、この使用数量は他の自動化部品より遥かに大きい。セクション別に見ると、リチウム電池製造設備のサーボ製品は電池セルの合成セクションで最も多く使用されている。それは電池セルの合成セクションのプロセスが多く、しかも電池セル製造の巻取/ラミネート装置のプロセスが複雑で、数十軸のサーボを配置する必要があるからである。

2021年リチウム電池製造設備に使用される部品シェア

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(データ出所:MIR DATABANK

*備考:その他には主にロボット、リニアモーター、低圧モーター、PC-base、センサーなどが含まれる。

 

より多くのリチウム電池製造設備を備えたサーボ市場には、欧米、日本、中国の3つの勢力からのプレイヤーが集まっている。欧米系ではSiemensやSchneiderを始めとする従来型サーボメーカーが過去長い間、中国市場のピラミッドのトップに位置していた。Omron、Yaskawaを始めとする日系は前世紀末にメカトロニクス化の東風に乗って発展し、90年代末に中国市場に参入し、その特許の優位性と先発の優位性(リチウム電池の概念は日本が起源)によって中国市場の一部を急速に占め、そのサーボ製品も安定して中国市場に於けるピラミッドの中部に位置した。

Inovance、HCFAKossiなどの国産メーカーは「下克上」の方針を採用し、ピラミッドの底部から次々と逆襲を始めた。そのサーボ製品の技術はアップグレードされ、新型コロナによるチャンスを掴み、現地化のコストの優位性によって徐々に外資メーカーのシェアを獲得した。Inovanceを例にすると、Inovanceはリチウム電池設備製造分野のサーボ製品ラインの戦略は攻撃を主とし、フロントセクションのダイカット、巻取/ラミネート装置などの製品について、主にSV660Nのethercatバス型サーボが外資メーカーと競合することを推進し、比較的急進的な価格戦略を採用して外資メーカーの大きな市場シェアを獲得した。また、2021年4月、InovanceはSiemensと競合するためにIS620FとIS810Fのprofinetバス型サーボを発売し、PACK/モジュール生産ラインでSiemensへの入れ替えを徐々に実現し、市場シェアを更に伸ばしていく。

Inovanceは勢いよく、外資系の大手メーカーのシェアの一部を獲得した。然し、Inovanceの攻勢に直面し、外資メーカーは仕方がない。MIR 睿工業の統計によれば、2021年に中国のリチウム電池設備に於けるサーボブランドの市場シェアはInovanceが第1位を占め、そして徐々に第2位との差を広げた。第一グループ(上位三社)では外資メーカーは見られなかった。

ここ数年、外資メーカーは自社の市場シェアが圧縮され、少し仕方がない。それは競争力がないわけではなく、多方面の配慮によるものである。中国市場が新型コロナや貿易戦争などの要因によってサプライチェーンに悪影響を及ぼし、一部の外資メーカーはサプライチェーンのリスクを分散するために、中国市場で存在感を低下させた。一方、外資メーカーは中国市場では仕方がない。2020年に新型コロナの流行が始まったばかりの頃、全てのメーカーは衝撃を受け、当時の市場に必要なのは出荷で、業界全体のチップ不足を背景に、外資メーカーの納期が遅延され、いつ納品できるのか分からなかった。然し、Inovanceは出荷を保証するために十分に多くのチップを備蓄し、しかも製品は外資メーカーに匹敵することもできたため、川下の設備メーカーにとって国産メーカーの製品を使わない理由がなかった。また、外資メーカーがInovanceなどのメーカーとの価格戦争や市場競争をする戦略を採用する場合、ベトナム戦争のジャングルゲリラ戦における米軍とベトナム軍と同じで、何の意味も無い。

現在、リチウム電池製造設備に於けるサーボ製品の国産化が優位性を占める傾向が決まっている。今後、自動化産業チェーン全体の欠品が明らかに緩和されていない背景の下で、Inovanceを始めとする国産メーカーは更に現地化の優位性を発揮し、リチウム電池製造設備分野でサーボ製品の市場シェアを拡大すると予想される。

 


戦線が変わり、外資の懸念することが起こった

 


実際、リチウム電池製造設備における外資メーカーのサーボ製品は戦略的に処理を断念していることが反応姿勢からわかる。彼らの考え方ははっきりしている: 棄車保帥(飛車を捨てて王将を守る)—サーボ製品ラインを収縮し、PLCの「高地」にこだわる。自動化部品市場に於けるPLC製品の技術性は比較的強く、全体的に国産メーカーはこの分野ではまだ外資メーカーの製品と競合することができなく、製品の市場占有率の上でも差が小さくない。明確な証拠は、PLC市場全体では、2020年のInovanceの売上高はSiemensの6.21%しかなく、国産の上位メーカーまでこのようになり、他の国産メーカーは言うまでもない。従って、ハイエンドの自動化製品市場を占領して市場を支配するという考えで、外資メーカーは安全にピラミッドのトップに位置することができると思っている。然し、現在見ると、彼らの考え方には三つの誤判があるかもしれない:

一つ目の誤判は国産メーカーの能力とフォロースピードを過小評価していたことで、現在、Inovance のPLCは既にフロントセクションの関連製品、例えばダイカッター、ロールプレス機では外資メーカーへの入れ替えを実現した。現在、InovanceのPLCは既にフロントセクションの関連製品、例えばダイカッター、ロールプレス機でOmronへの入れ替えを実現し、そしてそのH5UシリーズPLCもまた、電池セルのミッドセクションの組立ライン関連メーカーを攻略している(例えば、海目星、先導、利元亨、聯贏、大族)。ライン全体の入れ替えまではまだ長い道のりがあるが、国産メーカーがこの分野で着実に一歩踏み出したことを示している。Inovanceのここ数年の発展状况を見ると、2022年にInovanceはリチウム電池製造設備に於けるPLC製品のシェアを更に高めると予想される。これもOmronなど外資メーカーが特に注意を払う必要があることでもある。

2つ目の誤判は、リチウム電池の製造プロセスの開発動向による影響を過小評価していたことである。この傾向の核心はコストダウン・効率アップであり、即ち、電池の生産ラインの建設コストを削減すると同時に、生産の一貫性と効率を高めることである。

具体的には、設備の加工速度を上げることを選択し、できるだけ敷地面積を減らし、設備の使用数量を減らすと同時に生産ラインの生産能力を高め、コストダウン・効率アップを実現する。電池製造プロセスを簡素化でき、従来のプロセスは主に電極チップ製造、電池セル合成、充電放電・容量選別及びモジュール/PACKの四つを含み、現在CATL、BYD及び蜂巣能源は続々とCTP(Cell to Pack)プロセスの関連製品を発表し、モジュールプロセスをスキップし、電池セルを直接に電池パックに統合する。

プロセスの簡素化は、国産メーカーが取り組む必要のあるPLC関連のプロセスが減少し、電極製造および電池セル合成などのPLC関連プロセスにより多くの時間と労力を費やすことができることを意味する。逆に、外資メーカーにとっては、以前の地位を維持する圧力が更に高まる。

三つ目の誤判は、リチウム電池生産設備一体化によるサーボメーカーへのリソースサポートを無視したものである。設備の一体化は主にスペースと人件費を節約することにより、設備間の搬送過程は要らなく、更に電池の生産効率、及び電池の安全性と互換性を高める。

現在、電池セルのフロントセクションで実現できる一体化のプロセスには主にコーティング、ロールプレスとストリップが含まれる;電池セルのミッドセクションには主にチップ製造、巻取とラミネートが含まれる;電池セルのバックセクションには主に充電放電・容量選別が含まれる。

設備一体化の開発動向によって電気設計がより複雑になり、制御の精度、安定性の要求がより高く、サーボの使用がより多く、電力がより大きい。単品一体化設備で使用されるサーボの数量は、従来のいずれかのプロセスに於ける単一の従来型設備より遥かに多い。

サーボの大量使用はコストパフォーマンスの高い国産メーカーの方が供給優位性があることを意味する。今後は、設備一体化の傾向の下で、Inovanceを始めとする国産メーカーは更に多くの受注を獲得することが予想される。また、国産メーカーも、サーボ分野で得られた利益を、部分的にPLCなどのハイエンド製品の研究開発・販売に分散させることができ、実際には、国産メーカーがPLCなどの外資メーカーが支配する製品ラインで国産化の代替を行う余地が残される。

 

 

進撃はダッシュを開始することを意味



中国のリチウム電池製造設備の関連産業の発展は事実上、マラソンの過程である。最初に、日本のSonyはリチウム電池という概念を発表し、初期にコンシューマーエレクトロニクス製品に使用された。日本はその特許の優位性と先発の優位性により、1991-2000年に世界のリチウム電池製造とその設備市場をほぼ独占した。この時期、日本はリチウム電池の発展の第一グループにあった。それと同時に、国内の関連産業の発展はまだ空白である。

20年余りの発展を経て、国産設備メーカーは設備の機械構造を絶えず改善し、一部の原材料と部品について模倣し、交換を行い、単一生産ラインのコストは8-9億元/Gwh(万向一二三事例)から3億元/Gwh の水準に下がり、中国は設備の国産化を通じ、先導智能、贏合、杭可を代表とする優秀な設備メーカーは既に設備事業の輸出を実現できるようになった。この時期、中国メーカーはもう身近な「チームメイト」に追いつき、そして追い越しを計画し始めた。

リチウム電池製造設備の関連部品分野に於けるInovanceの大胆な急進は、実は国産メーカーが長年抑圧してきた後の縮図である。この背景には、Inovance、HCFA、Kossi、Gotronなどの国産自動化メーカーが長年にわたり、外資メーカーの学習、模倣、独自研究開発を通じて蓄積してきたことがある。

我々は現在、リチウム電池分野の自動化設備に関する競争が、最終段階に入ったと判断した。ゴールが近づいているとはいえ、このコースの選手にとっては一歩一歩を踏み出すのが非常に難しいため、最後の一キロは長いものになる。関連部品分野を見ると、Inovanceを始めとする国産メーカーは、強力な外国の敵に直面して大胆に前進し、「ホームフィールドアドバンテージ」を生かして敵との差を縮めるしかない。追い詰められていくInovanceを代表とする国産メーカーに対して、外資メーカーは初期この進撃の方法に慣れていなかったことが明らかで、ペースを乱されてしまった。

幸いなことに、外資メーカーは今既にこの「部屋の中の象」を再び重視し始め、彼らもそれに応じて自分の戦略・戦術を調整して新しい局面に適応すると信じている。