業界観測

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焦らず、製造業復活の弾丸を暫く飛ばせ!

多くの労働者は今回の新型コロナ以来、このような大規模なプロジェクトは初めてだと言っているが、これは浦口という長江の北に於ける小さな都市への投資の氷山の一角にすぎない。


 

2022年6月7日、江蘇省南京市浦口経済開発区の団地内は車が行き交い、多くの労働者は工事現場で忙しく働いていた。ここには間もなく投資総額100億元の中国初の5G、FCBGAハイエンド基板を量産する工場が建設される。投資先は芯愛科技という企業である。多くの労働者は今回の新型コロナ以来、このような大規模なプロジェクトは初めてだと言っているが、これは浦口という長江の北に於ける小さな都市への投資の氷山の一角にすぎない。

 

団地内に於ける多くの企業管理者は、2022年は不遇な年で、年の初から現在に至るまで、新型コロナなどにより、多くのプロジェクトが建設を開始しておらず、上海ロックダウンの影響を受けて団地内の一部の貨物がスムーズに運び出されなく、大量の貨物の納期が延期されたことを感嘆している。2021年を振り返ってみると、その時は繁栄とは言えないが、少なくとも同年の団地GDPは初めて百億元を超え、前年比14.43%増加した;規模の工業総生産額は前年比21.97%増の273億元である。工業投資は前年比28.11%増の98.49億元である。


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浦口経済開発区が2022年の初に直面した困難は一例ではなく、浦口のような産業クラスターが中国大陸にまだ多くあり、これらの産業クラスターを合わせて中国製造業の基本的な基盤である。中国の製造業は中国経済発展の「エンジン」と言えば、これらの産業団地と中のメーカーはこのエンジンの「スパークプラグ」である。

 

全体は一部を通して見ることができ、中国の製造業は2022年以来不況を続き、2022年初め以来の製造業の関連データを見ると、1、2月の中国の製造業PMIはそれぞれ50.1%と50.2%で、全体は臨界値よりやや高いが、栄枯線をやや上回った。続いて、上海の感染拡大で都市全体がロックダウンされ、3月、中国の製造業PMIは49.5%まで低下し、臨界値を下回り、生産指数(49.5%)と新規受注指数(48.8%)はいずれも2020年3月以来最低となった。しかもこの不況は5月まで続き、PMIも「安定」しており栄枯線(50%)を下回った。

 

2021年5月-2022年5月中国製造業PMI指数

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(データ出所:国家統計局)


そこで、製造業の2022年の見通しに対して楽観視できず、2022年製造業は比較的大きな圧力に直面すると思っている人が多いが、これは中国製造業が内外の復雑な情勢の下で一時的に受けた冲撃にすぎなく、2022年下半期或いは2023年上半期に回復の転換点を迎えると予測する人もいており、では具体的な状況はどうだろうか?いくつかのデータから答えを見つけることができるかもしれない。

 


悲しみも喜びもある



2022年以降、MIR睿工業は製造業に於ける19の業界(食品飲料、紡績など)に対して月次モニタリングを実施した。それによると、202215月、中国製造業の新規登録社数(民間企業)は合計103606社に達し、202115月に比べて約35%減少した。この傾向は、製造業の景況とほぼ正の相関を示している。


これら19業界の登録資本金が1000万元以上の企業(これらの企業は製造業の中堅として、大規模な生産・工場建設に投資する能力がある)は合計3851社で、2021年に比べて約55.5%減少した。その中で、17の業界に於ける新規社数が2021年の同期より減少したが、石油化学、タバコ業界は他の業界が減少する中で逆に増加した。

 

2022年1-5月製造業の業界別の新規登録社数(登録資本金が1000万元以上)

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(データ出所:MIR DATABANK

 

石油化学業界に於ける新規企業の逆成長はロシア・ウクライナ紛争による世界の石油価格の高騰に恵まれ、国内の石油関連産業チェーンは原油価格の上昇に恵まれて生産能力を次々と拡大した。ロシア・ウクライナ紛争の前、2022年の世界の原油需給ギャップは存在しており、在庫解消傾向が維持されるとみられていた。ロシアウクライナ紛争が勃発した後、世界の原油需給の両端に変化(原油高により、世界の原油需要の伸びは鈍化し、OPEC連合の増産は予想に及ばず、供給の弾力性が低下)が発生し、需要の回復が鈍化したことを考慮しても、世界の原油需給ギャップは更に拡大する。今後数年の原油価格は長期的に高い水準にあると予想され、原油価格の平均価格の上昇は川上関連産業にとって良いことである。

 

タバコ業界の逆成長は主に、2021年に国家の禁煙関連政策と新型コロナの影響を受けたことにより、中国のタバコ製品の輸出入貿易は大幅に減少し、タバコ業界は小幅に制限されているが、国内で最大の納税額を持つ業界として、関連産業と従業員の数が多く、その発展は長期的に制限されることはない。2022年、従来の紙巻きタバコから新型霧化電子タバコへの発展に伴い、電子タバコ関連の監督管理政策が徐々に改善され、全国の統一電子タバコ取引管理プラットフォームが正式に運営され、中国国内では多くの企業のタバコ生産許可証が発行されることになる。



江蘇省・浙江省・広東省・山東省は引き続きリードし、北京天津地区は逆成長



地区別に見ると、MIR 睿工業は全国31の省、自治区と直轄市の製造業の新規社数を統計した結果、2022年の最初の5ヶ月で、中国製造業の新規社数103606社の中で、江蘇省に11288社あり、この数字は他の省と市を遥かにリードしている。浙江省、広東省、山東省はそれぞれ10516、10064、9394社という数字でその後を追っている。以上のデータを見ると、現在中国の成長のホットスポットは依然として、江蘇省、浙江省、上海市と珠江デルタなど産業クラスター程度の高い地域に集中している。江蘇省は第一位に位置するのは、その発展の先天的優位性と関係がある:長江の水道に沿い、独特な水運の優位性を持ち、また上海という全国的な経済センターに隣接し、産業の発展はずっと着実に進んでいる。2021年、江蘇省は11.63億元の経済総額で全国各省・市のGDPランキングの第2位であり、広東省に次いだ。

 

2022年1-5月各省・市に於ける製造業の新規社数

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(データ出所:MIR DATABANK

 

新規登録資本金が1000万元以上の企業を調査した結果、2022年の最初の5ヶ月間で、中国製造業の新規登録資本金が1000万元以上の3851社の中で、山東省に444社あり、各省市の第1位になった。浙江省、河南省、江蘇省がそれに続いた。江蘇省では、全体的に新規社数が一番多いが、1000万元以上の規模を持つ新規社数が第一位に位置していないことも明らかであり、これは江蘇省の経済の原動力の大部分が民間中小企業からのものであり、逆に江蘇省の特殊な地理的位置や産業分布構造も民間中小企業のインキュベーションに適していることを示している。

 

2022年1-5月各地区に於ける製造業の新規登録社数(登録資本金が1000万元以上)

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(データ出所:MIR DATABANK

 

このデータの中には、ハイライトすべき地区もいくつかある。天津市、北京市の二つの直轄市は2022年に新規社数は減少せず、逆に増加した。MIR睿工業の分析によると、天津市の新規社数の逆成長は二つの理由がある:一つ目は天津市に於ける基幹産業の中の石油化学産業は、国際的な原油価格の上昇の影響を受け、川上の関連業界の発展を牽引したことである;二つ目は天津市の自動車部品産業、半導体製造産業は国内の広大な市場需要の下で急速に発展し、生産能力を拡大させたことである。

 

一方、北京市の新規社数の逆成長は、コンピューター、通信及びその他の電子設備製造業の持続した牽引によるものである。また、北京市での新型コロナの繰り返しも医薬製造業の需要の増加を刺激した。長期的にみると、経済発展をリードするためにハイエンド産業に依存する製造業の戦略を堅持し、2022年Q1、北京市ハイテク製造業、戦略的新興産業の増加値は前年比それぞれ16.8%と14.6%増となり、同時期の規模以上の工業より9.6ポイントと7.4ポイント増となった。

 

 

新しい工場—製薬、半導体、新エネルギー電池が注目に値する



MIR睿工業は3C、半導体、食品飲料、製薬、自動車、太陽光発電と電池業界に引き続き関心を寄せている。20221-3月、この7つの業界に於ける新規登録工場は合計101社であり、その中で、製薬、自動車、電池、半導体業界の新規工場はそれぞれ36社、16社、14社、15社で相対的多かった。

 

2022年1-3月新規工場数量—業界別

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(データ出所:MIR DATABANK

 

製薬業界の新規工場が急速に増加している大きな要因は、新型コロナによって海外企業の対応速度が著しく制限され、国内外の製薬企業の急速な生産能力拡大の需要を満たすことができなくなったことによるものである。中国国内の製薬業界に於ける上位企業は、中国国内の新規需要/エンジニアのボーナス/国際化の事業展開を利用し、新しい化学分子が反復を加速する世界の第4回製薬工業ブームの中で、輸入薬品の国産化の代替ペースを加速し、より多くの世界市場シェアを争奪することを望んでいる。一方、新型コロナの再び感染拡大も、新型コロナ原薬などの医薬品に対する国内の需要を高めており、2022年2月に国家薬品監督管理局が条件付きのPfizer Paxlovidの輸入登録を承認したことも、関連製薬産業の急速な発展を更に促進した。

 

2022年1-3月製薬業界の新規登録工場

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(データ出所:MIR DATABANK

 

特筆すべきは、君実生物の上海市自由貿易試験区臨港新区第二期及び改築・拡張プロジェクトが2022年1月に登録・審査され、投資額が10億元に達したことである。これは製薬業界が2022年に新規登録工場の中で2番目に高い投資額を記録したデータである。主にモノクローナル抗体医薬品と中和抗体医薬品を生産し、高分子タンパク質医薬品のパイロット生産を行っている。この新設プロジェクトの生産ラインは主に原液ラインを生産しており、外部は君実生物の投入する新型コロナ飲み薬「VV116(JT001)」の大量生産が改築プロジェクトと推定している。

 

新型コロナのショックによる短期的な需要急騰、新設工場数の受動的な増加という製薬業界の特殊性を取り除いた。半導体、新エネルギー自動車産業チェーン(動力電池を含む)、太陽光発電は依然として製造業の他の業界は全て不況に直面している中で、産業の急速な成長を牽引する分野である。電池業界について言えば、2022年に新たに登録された15の新しい工場の中で、新エネルギーの動力電池プロジェクトは6件で、動力電池の上位企業、例えばCATL、時価総額が百億元を超えたばかりのBYD、中創新航、贛鋒鋰業、蜂巣能源などはそれぞれの配置を持っている。

 

2022年1-3月電池業界に於ける新規登録工場

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(データ出所:MIR DATABANK

 

CATLが広東省肇慶市に設立した登録資本金10億元の広東瑞慶時代新エネルギー工場について言えば、同プロジェクトは広東新エネルギー自動車産業チェーンのメインプロジェクトとして建設され、25GWhの動力及び蓄電池の生産ラインの建設が計画されている。CATLにとってこの2年間は業界からの不安を感じていた: PanasonicとLGはCATLの新型電池事業に於ける競合先として早くも新型電池技術の研究開発を始めており、新世代の動力電池プロジェクトでTeslaと協力する大きなチャンスがある。一方、CATLの動力電池分野での深堀に伴い、その収入源は更に集中し、これは川下のホスト工場の発言権を向上させ、その電池技術、品質要求も高くなるため、CATLはコストを下げる圧力に直面する。これらの問題に直面し、CATLは絶えず生産能力を拡大すると同時に、新しい電池技術、新しい技術、新しい材料を開発し、総合的に製品の代替不可能性を高めなければならない。

 

肇慶市で工場を建設することは、肇慶市とCATLにとって、ウィンウィンの選択である。肇慶市にCATLを導入することで、千億級の産業クラスターの形成を加速し、地元の経済発展を促進することができる。一方、CATLは肇慶市の新エネルギー自動車産業チェーンに統合し、産業協同発展のボーナスを獲得することができる。

 

 

某楽観主義者の告白



5月に入ってから、上海の新型コロナは徐々にコントロールされ、6月以降は全面的に正常に戻った。これは新型コロナというブラックスワンが経済に与えた強い影響が一時的に終了したことを示しており、多くの人は下半期に景気が回復することを期待している。製造業にとっては、各業界の全面的な操業再開に伴い、業界の回復は論理的には当然のことのように思われる。

 

新型コロナによる厳格な管理中、一部の業界関係者の製造業に対する悲観的な見方に対して、我々は研究を通じ、新型コロナが非常に深刻な月であっても、一部の地域、一部の業界に於ける製造業に「希望」が現れることを発見した。例えば、石油化学、交通輸送、タバコ業界の逆成長;天津市と北京市は減るどころか増える。製造業の新しい力——新規企業の増加を分析する過程で、我々は中国製造業の粘り強さを見ることができる。特に現在、ネット上では「ベトナム代替理論」が飛び交い、中国製造業の将来について少し懸念を抱かせている。然し、先祖の知恵が教えてくれたのは: 禍福は糾える縄の如し。

 

中国製造業のこの2年間の様々な状况は、景気全体に少なからず冲撃を与えたが、我々の製造業は実際にはより洗練されたより強力な道を進んでいる。同時に、新型コロナなどの不利な要素により、我々は多くの機会を見つけられ、これらの機会を持つ業界の発展も逆に中国製造業のモデルチェンジと高度化に役たつ。

 

世界経済の成長サイクルを見ると、現在の経済状況は、70年代の世界経済が生み出した「スタグフレーション」(経済成長の鈍化或いは停滞、かつ大規模なインフレ)の局面と微妙に似ている。違いは、前回の景気後退の大きなの要因は「石油ショック」によるものである。今回の景気後退の大きな要因は、世界的な新型コロナの流行を背景とした様々な複合的要因の共同作用によるものである。

 

昔のことを考えると、その危機からソリューションを見つけることができる。当時の欧米諸国は、「ケインズ主義」が常に主張してきた経済への政府の介入を放棄し、「新自由主義」の採用に目を向けることで対応した。市場の役割を見直し、政府の介入を更に減らし(完全に放置するわけではない)、個人や企業の納税の税率を大幅に引き下げるなどの対策を講じ、経済の活力を更に引き出す。これらの一連の改革を通じ、資本主義経済は復興を実現し、情報技術革命の東風に乗り、欧米諸国は経済発展の黄金時代に入り、ひいては後の世界経済の基本構造にまで大きな影響を与えたと言える。

 

従って、将来を展望すれば、前途は明るいに違いない。然し、従来の政府が考えていた大規模な投資と違うかもしれないのは:過去の我々の文化的概念、国内市場の発展の特徴などの要因により、国内消費側はずっと経済発展の積極的な力になることができなかった。むしろ中間にある製造業は、異常な経済期に於けるインフレや大規模失業などの経済圧力を消化している。製造業が負担に耐えられない状況になると、我々はまた大規模な投資をして外部から回復を刺激し、まるでペースメーカーで瀕死の患者に電気ショックを与えるようである。

 

2009年以降、4万億元の投資が国内経済を牽引している作用を見て、多くの人は一種の考え方を抱くようになる:大規模なプロジェクトの立ち上げは第一生産力である。実際には、大規模な投資のGDPへの寄与度は年々弱まっている(2020年の新型コロナの流行により、経済の需要が一時的に高まったため、投資のGDPへの寄与度は異常に上昇したことを除く)。この傾向は市場の法則によるものであり、いかなる機関や個人の意志によるものでもない。従って、ポストインフラ建設時代の安定した投資は必ず企業と市場化投資を主とし、政府に於ける安定した投資の注力ポイントは「放管服」(簡政放権(行政簡素化と権限委譲)、放管結合(権限委譲と管理の両立)、優化服務(サービスの向上)の略称)とビジネス環境の改革を深化させ、税金と料金を大幅に削減し、供給制約を全面的に緩和し、政策リソースと重点を全面的に消費を安定させる有効な措置に振り向けることである。勿論、投資を適切に拡大する必要もある。

 

供給学派の信者として、我々は現在の中国の経済回復は消費と投資に注力すると思っている。このようにしてこそ内需の全面的な拡大に役たち、国内の大循環を主体として、国内と国際の二重サイクルが相互に促進する新しい発展構造を形成し、中国経済を長く安定させていくことができる。

 

要するに、経済回復の銃は既に発砲され、硝煙はまだ消えていない。多くの人は経済の急速な回復を期待しているが、焦らず、暫くの間、弾丸を飛ばして貰いたい!