業界観測

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Inovanceロボットの販売台数の急増に関する原動力を探る

この競争が激しい市場では、戦略の方向性が前向きではっきりしている者が、最後の戦いに成功するに違いない。



2022年6月18日、Inovanceの南京ハイエンド装備研究開発生産基地が正式に着工した。情報によると、Inovanceの南京工場はInovanceの精密機械製造拠点と位置付けられ、主に産業用ロボット、産業用ソフトウェア、ボールねじ、デジタル化及び研究開発などの事業分野にカバーし、生産高に達すると、年間28万台の精密ボールねじと12万台のロボットを生産する予定。

2017年から現在まで、産業用ロボットの分野で、販売台数の成長速度が最も速いのはInovanceに違いない。Epsonが中国市場に参入してから10年後、販売台数は1万台を超えた。然し、Inovanceはこの目標を達成するのに5年しかかからなかった。

ロボットは、人気が非常に高い分野として、多くの人は以下のことを知りたい:Inovanceは製品の品質によって1万台を超えるのか?或いは販売チャンネルによって販売台数の急増を実現するのか?Inovanceは1万台のロボットを販売できるのは、ビジネスモデルのイノベーションに関わるのか?市場戦略によってブレークスルーするのか?国産の他のメーカーがそれを勉強・参考にできるのか?産業用ロボットの産業チェーン、川下アプリケーション市場及び公開された市場情報を通し、この急速に進歩した「ダークホース」が使用した方法を推測する。




Inovanceロボット技術及び製品群:技術拡張の戦略を採用




Inovanceロボット製品の発展過程は、2013年まで遡るする必要がある。

2013年、Inovanceはマシンビジョンの分野に参入し、ロボット事業を探求し始めた。

2015年、中国の産業用ロボットは資本と技術によって上手く発展し、多くの中国の新興企業及び事業転換の企業が産業用ロボット分野に参入した。2015年、Inovanceは産業用ロボットのコントローラー「IMC100R」シリーズを開発した。その時、産業用ロボット業界に於けるInovanceの戦略は:「産業用ロボットの背後にいる技術の王者になる」。その時のInovanceは、モーションコントロール技術を産業用ロボットへと拡張していた。成熟した技術を新しい市場に活用し、製品群拡張の戦略を採用し、比較的保守的で慎重な方法である。

2016年、Inovanceは第一世代SCARAロボットを発表し、産業用ロボットのコア部品市場の開拓経験を持っているため、Inovanceは産業用ロボットの川下市場アプリケーション状況をより深く理解した。2016年、Inovanceはロボット業界での事業展開を「小麦粉(コア部品)+プロセス」から「完成機+プロセス」へと拡張した。これは産業用ロボット産業を把握した後、Inovanceが行った第二ステップの拡張—完成機への発展である。

第一世代製品の発表後の市場反応が弱かったためか、2017年にInovanceは新世代のSCARAロボット(所謂:二世代ロボット)を発売した。製品は400mm-1000mmのアームスパンをカバーし、ロボット負荷は最大20kgに達した。初期に公開されたいくつかの事例ビデオを見ると、次世代ロボットの外観構造が最適化されていることがわかる。

2018年、Inovanceはロボット事業の中で、デスクトップ型の6軸ロボットや、フリップチップ型のSCARAロボットを発売した。2019年には、20kg負荷の大型六軸ロボットを発売した。これで、ロボットの製品群が基本的に固定され、現在まで続いている。

同様にロボットのコア部品から完成機分野に参入したCrobotpを類推すると、Inovanceのロボット製品のアップグレード速度は業界をリードしているわけではないことがわかる。然し、その賢明な点は、時代の東風に乗り、自動化業界の発展に於ける自社の優位性を利用して勢いに乗り、モーションコントロールの拡張式の革新から、産業用ロボット市場に参入したことにある。

従って、Inovanceロボットの初期の発展は、モーションコントロール製品の「新しい戦略」と呼ばれることができる:モーションコントロール技術に基づく拡張であり、モーションコントロールのための新しい業界の成長ポイントである。2017年以降、Inovanceは新しい戦略に基づいて新しい方向を探求し、ロボットの事業発展の方向をゆっくり決定した。その後、ロボットの研究開発には、Inovanceも毎年総研究開発費の10%を投入し、深圳、蘇州、西安、ヨーロッパの多くの研究開発センターがハードウエアとソフトウエアの研究開発を保障し、現在ロボットのコア部品は減速機以外に、Inovanceは既に全て自作を実現している。

Inovanceのインバーター、軌道交通、新エネルギーモーター電気制御分野の事業発展を見ると、インバーター技術は基礎技術として、高圧インバーターに拡張して軌道交通牽引分野に参入し、消費級市場に拡張して電気駆動分野に参入した。同社は継続して実行している:基盤技術を基礎として、製品群の新たな分野を開拓する戦略。

これは以下のことも説明できる:技術所有者にとって、業界の機会は公開された「陰謀」に属し、全ての企業が見え、相応の策略ときっかけを利用して急速に攻略する必要がある。戦略方向を大まかに决定した後、急速に戦略を策定し、戦略を体系的に分析し、しかも急速に戦略を実施することができる企業は、成功する可能性が高くなる。




戦略計画を分析し、Inovanceロボットのマーケティング戦略はコピーできるのか?




初期段階では、Inovanceロボット製品は、モーションコントロール製品の新しい探索と拡張に属しており、これは初期の連結決算にも反映されている。2019年まで、産業用ロボット事業は産業用自動化&ロボットの分類に属して統計を行っていたが、2019年の連結決算の中で、産業用ロボットの売上高は初めて個別に開示され、1.05億元である。決算発表のデータだけで言えば、このような小規模な売上高が個別に計算された(2019年のロボット事業はInovanceの売上高全体の1.42%を占めた)のは、明らかに産業用ロボット事業が正式にモーションコントロールシステムから独立し、完全な組織と単独した評価メカニズムを持ったからである。これで、Inovanceロボット事業はインキュベーションから作成までの過程を本当に完成した。まとめると約4年かかった。

Inovanceの四半期別のロボット事業売上高(単位:億元)

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(データ出所:Inovanceの連結決算)


Inovanceロボットの四半期別販売台数(単位:台)

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(データ出所:MIR DATABANK)


Inovanceの産業用ロボット事業が独立した翌年、売上高は2019年に比べて60%の急成長を実現し、Q1以外の四半期は比較的平均で、売上高は基本的4500万/四半期を維持した。MIR DATABANKのデータにとると、2020年のInovanceに於ける産業用ロボットの完成機の出荷台数も前年比32.6%増加したが、具体的に見ると、InovanceのSCARAロボットの四半期平均販売台数は依然として1000台に満たず、6軸ロボットの四半期平均販売台数は100を超えず、60台余りしかなかった。

産業用ロボット製品の中には、SCARA、デスクトップ型6軸、アーク溶接ロボット、スポット溶接ロボットなど、非常に特殊な製品がある。これらのロボットは、業界の複製、大口顧客の受注によって指数関数的急増を実現することができる。従って、2020年Q1-Q4、Inovanceロボットの販売台数の変動が小さかったのは、大型受注事業が不足したからである。

Inovanceロボットの事業システムには継承とブレークスルーがある。何を継承したのか?Inovanceのモーションコントロールシステムからロボット事業が生まれ、その製品の販売チャンネルは必然的にモーションコントロール類の製品と極めて大きな重なりがある。そのブレークスルーは独立した評価システムからなる。チームが単一の目標に対して努力することを要求し、たとえこの製品の売れ行きが悪いとしても、体験を最適化し、新しいチャネルと新しい顧客を開拓しなければならない。同時に、独自した事業部が独自したチャネル管理ソリューションとシステムを持っている。これは、Inovanceロボットの販売台数がより均等にレベルを上げることができる理由を説明することができる。

Inovanceのモーションコントロール事業は2020年のロボット事業の着実な成長を牽引しただけでなく、2021年Q2、Inovanceのロボット事業は前月比86%増、前年比160%増になった。Inovanceロボットは新エネルギー自動車業界の発展に恵まれ、リチウム電池業界で大型受注を獲得した。然し、理論的には、従来のロボット製品の生産能力や販売台数に依存して顧客と十分な信頼関係を築くことができないため、超大型受注を獲得する背後には必ずモーションコントロール製品の支えがある。


2016-2021年Inovanceの汎用自動化事業売上高(億元)

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(データ出所:Inovanceの連結決算)

*2019-2021年、Inovanceはインバーター、サーボ事業を統合して汎用自動化事業を総称


汎用自動化事業とSCARAロボットのアプリケーション市場はちょうど100%重なることができ、そのため、Inovanceロボット事業に於いてSCARAロボットの販売台数が6軸ロボットの販売台数より遥かに多い。Inovanceに於ける汎用自動化市場への普及率の向上に伴い、その顧客価値に忠実なサービスシステムにより、異なる業界、異なる規模、異なる発展段階の企業のアプリケーション事例を蓄積し、急速かつ正確に顧客の問題点を把握し、顧客と共に発展することができ、これらの各業界に対するプロセスの整理と大口顧客の蓄積は全てInovanceのSCARAロボット市場開拓の重要な手段である。Epsonの業界開拓の経験を見ると、SCARAロボットが業界の大口顧客に焦点を当てる戦略は成功したソリューションである。

過去3年間のInovanceに於けるロボット事業の高度成長経路を見て、国産ロボットの台頭を背景に、国内の他のメーカーはそれを参考にしていくつかの業界に焦点を当てることができ、大口顧客の需要に上手く対応する。また、新しい事業の方向が明確になった後、独立したシステムで運営を行い、システムのサービス価値を十分に掘り起こす。然し、膨大な顧客リソースと豊富な業界経験、そして大型顧客のブランドへの信頼は、他の国産ブランドが短期的に持ちにくい資本である。




¬最後に




高い木になるには、他の木の陰で成長してはいけない。技術の出発点であるか、市場チャンネルの確立であるかを問わず、Inovanceロボットは汎用自動化事業に恵まれた。同時にその急成長は、川下産業のコスト削減と効率向上の東風に乗った。

SCARAロボットは既に上手く発展しており、6軸ロボットはまだ力を蓄えている。Inovanceは2018年にデスクトップ型6軸、2019年に20 kgの6軸ロボット製品を発売して以来、6軸分野で特にはっきりした反応を得られなかった。一方、MIR DATABANKのデータによると、多関節ロボットは依然として産業用ロボット分野で最も高い割合を占める製品セグメント市場であり、同様の市場の競争は更に激しくなる。


中国に於ける製品別の産業用ロボットの販売データ(単位/台) 

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(データ出所:MIR DATABANK)


以前、Inovanceは関連公告で2022年に重負荷6軸ロボットを開発することを明らかにし、先日、Inovance も予定通りR60/R80中負荷6関節ロボットを発表し、これはInovanceが中型・大型負荷6関節ロボット分野に初めて参入した。今後数年、Inovanceロボットは依然として先進的製造の各業界と新エネルギー産業に焦点を当て、Inovanceの巨大なシーンの優位性を利用し、高品質のロボットエコシステムを一緒に作成する。また、2022年はInovanceの国際化の年であり、海外での事業展開は同社の統一された戦略的配置であり、今後5年間で、海外事業のシェアは30%に達するという目標を掲げているが、このデータはInovance 2021年の連結決算で3.44%に過ぎなかった。

準備は万全で、この競争が激しい市場では、戦略の方向性が前向きではっきりしている者が、最後の戦いに成功するに違いない。