業界観測

数年に亘り、工業分野の仕事で培った経験を通じ、客観的に蓄積した膨大なデータを基に、お客様へ弊社ならではの独自のアドバイスをご提供します。


ホームページ > 業界観測

年間7億の損失、樹根互聯は「妙手」か「俗手」か

六月一日が過ぎたばかり、上海証券取引所は樹根互聯股份有限公司の科創板上場申請を受けた。これは木根連絡が科創板の「入口」に立ち、資本試練を受け入れる準備ができたことを意味する。


 

六月一日が過ぎたばかり、上海証券取引所は樹根互聯股份有限公司の科創板上場申請を受けた。これは木根連絡が科創板の「入口」に立ち、資本試練を受け入れる準備ができたことを意味する。


image.png

 

これは本来、普通の企業の上場申請情報にすぎない。調達する資金も15億元と大きくなく、これらの調達資金は主にその主力事業であるインダストリアルインターネットプラットフォームのアップグレード及びインダストリアルインターネットシーンアプリケーションプロジェクトへ使用される。普通のことのように見えるが、注目すべきのは、この企業が3年近く赤字を続けていて、この1年の純損失が7億であること。

 


優位性のある企業



2016年にインダストリアルインターネット市場に参入してから現在まで、樹根互聯はこの分野での発展勢いは強く、自主制御可能なインダストリアルインターネットOSを中核とするインダストリアルインターネットプラットフォーム--「根雲」プラットフォームを開発しただけではなく、また、設備製造、鉄鋼冶金、自動車完成車および部品、電気等数十の工業細分化業界で約千社の工業企業と提携している。このような、中核技術+川下アプリケーションシーンの二重発展戦略を積極的に適用することは、産業インターネット企業の発展に非常に効果的である。

正しい戦略のもとで事業が急成長したことは事実でも証明された。2019年から2021年まで、樹根互聯の売上高は15,153.63万元から51,701.24万元に上昇した。3年間の売上高のCAGR84.71%に達した。Forbes中国「2021年度中国十大インダストリアルインターネット企業」のランキングでは、樹根互聯が第一位となった。


20192021年樹根互聯の年間売上高(万元)3年間のCAGR

image.png

(データ出所:MIR DATABANK


わずか数年で急速な発展を遂げたことができたのは、正しい発展戦略に導かれただけでなく、その優れた先天的な条件によるものであった。通常、インダストリアル・インターネット企業には次の表のように発展してきた:


image.png

(情報出所:MIR DATABANK 


上の表の企業種類から分かるように、樹根互聯は四行目の大手製造業集団から発展したきたインダストリアルインターネット企業である。その背後にあるのが、建設機械分野の大手メーカーー三一集団である。


image.png

 

その為、樹根互聯は三一集団と関連する企業と高額の関連取引が成立した。2019年~2021年には、樹根互聯が第一大顧客三一集団とその傘下の企業への売上高は、それぞれ11101.31万元、18438.88万元、27972.58万元で、全体売上高に占める割合は、それぞれ74.24%69.02%56.82%である。

 

樹根互聯の主要顧客と売上高

image.png

(データ出所: 樹根互聯目論見書)

 

今後、三一集団等の関連業者のインダストリアルインターネット分野での需要の引き続く増加に伴い、今後も樹根互聯と三一集団等関連業者との関連取引の比率は高い水準を維持する可能性がある。

樹根互聯の株式構成図によると、樹根互聯の実質的な支配者である梁在中は三一集団元董事長梁穏根の長男であり、樹根互聯はすでに三一集団の「長男」になったと言うことができる。戦略的な意味では、樹根互聯は、三一集団のデジタル変革の期待も寄せられている。これは、三一集団の将来に対する戦略手段である。

 


建設機械の新たな下落周期に、「樹根互聯」をサポートするのは?



建設機械分野の大手メーカーとして、三一集団は国内建設機械市場で着実に首位を占めている。しかし、建設機械業界は2011年以後、5年間の「スランプ」期に入った。この五年間、三一重工は大規模投資、さらには過度な投資に拘らなく、黙然と自分自身のデジタル変革計画を立てていた。


2021年の中国建設機械市場規模-メーカー別

image.png

(データ出所:MIR DATABANK

 

ついに、国内市場で建設機械設備の更新需要、多くの建設工事需要の増加、国産代替、機械代替の加速等多くの原動力の影響の下で、2016年から、建設機械業界は回復期を迎えた。樹根互聯もこの回復期に生まれた。孟子は:「憂患に生き 安楽に死す」と言ったが、樹根互聯は逆に、安楽に生き、憂患に発展。 

成立当初から、樹根互聯は三一集団のサポートで着実に発展し、市場の認知度も高いが、発展がいいとはいえない。決算から見ると、2019年から2021年までの3年間で、企業の毎年の売上高は倍数増加したが、コストとその他の費用を除いた後の純利益は連続損失し、過去3年間で、樹根互聯の累計損失約13億元で、2021年の一年だけで約7億元損失した。

 

image.png

(データ出所: 樹根互聯目論見書)


継続した損失については樹根互聯も説明した:自社事業と関連するインダストリアルインターネット業界は、技術と資金が密集している特徴を持っているので、初期の製品研究開発、技術研究はすべて大量の投資が必要である。そして、中国インダストリアルインターネット業界は、今世紀の初頭から発展し始めて、現在に至っても十年に過ぎず、新興業界中の新興業界である。

産業の発展は初期段階にある為、市場の開拓は完全ではなく、顧客の育成も全面的ではなく、デジタル化の転換の理念はまだ普及されていない。その為、樹根互聯のような先駆的な企業は、市場の開拓、顧客の育成、製品の宣伝に投入する為に多くの人的・物的・財力を費やすことになる。

また、急成長の段階では、売上高に比べて、樹根互聯の人件費と調達額がより大きい。もし今後研究開発投資が引き続き増加し、川下業界の顧客の経営情况が悪化し、顧客の支払い速度が減速すれば、企業の経営活動によるキャッシュフローが引き続きマイナスになる可能性があり、企業に運転資金が不足するリスクが存在し、これも間接的に企業の利益レベルに影響する。

樹根互聯の直面している問題は予想されることができ、業界の関係者は樹根互聯が最初に採用したのは未来の数年すべて利益を上げることができない戦略だと判断し、三一重工に頼って絶えず事業を開拓し、事業レベルと能力を高めて、同時に実戦の中でゆっくりと技術を開発して、自分のレベルを高める。しかし、三一集団のサポートに依頼しすぎると、樹根互聯は健全に成長できるのか?もし三一集団がサポートできない状況があったら、樹根互聯はどのなるのか?

建設機械業界は2021年下半期から下落期に入り、三一集団はストック市場からの競争、疫病の影響と国際情勢の変化、原材料価格の上昇による圧力に直面し、緩やかな成長期に入った。樹根互聯はこの状況を見て、自身も危機感を募らせた。三一集団が自身の圧力の下で、樹根互聯との関連取引が意思決定プロセスを履行できなかったり、公正な価格に厳格に基づいて執行できなかったりした場合、三一集団の関連取引により樹根互聯の経営業績に不利な影響を与え、企業及び中小株主の利益を損なうリスクが存在する可能性がある。 

逆に、樹根互聯によって投資された大量の資本とプロジェクトの資源は、三一集団が下向きの圧力の下でお金をかかる底なしの穴になる可能性もある。最悪の場合、三一重工は潜在的な「重荷」を舍て、樹根互聯は頼りない企業となり、成長が大きく遅れることになるかもしれない。

このようなリスクに対して、樹根互聯は積極的に三一集団とその支配下にある企業との関連取引の割合を減少させ、新規顧客数と売上高を徐々に増加させ、独自に市場に向けて事業を開拓する能力を身に着けることが予想される。

 


無限の発展可能性



決算では、樹根互聯が赤字続きの「リスクのある企業」であるが、決算だけを見れば、中国企業の多くは事業展開できない状況にある。その為、外見から本質を見て、樹根互聯が将来のインダストリアル・インターネット業界の「ユニコーン」になるかどうかを想像してみよう。

まずは政策のサポートである。インダストリアルインターネットは国家科学技術革新戦略の一つとして、今後の制造業発展の方向である。2018年に初めて政府工作報告に掲載されてから2020年に新しいインフラ建設の重点方向の一つに確定されるまで、"インダストリアルインターネットの発展を加速する"という言葉はすでに5年連続で政府工作報告に登場した。2021年、「第十四次五カ年計画」は「重点業界と区域に若干の国際水準のインダストリアルインターネットプラットフォームとデジタル化モデルチェンジ促進センターを建設する」という要求を提出した。新時期において、インダストリアルインターネットは国内発展を主体とし、国内と国際の二重発展が相互に促進する新たな発展構造を構築し、産業チェーン、サプライチェーンの安全と安定を保障する等の面で重要な役割を果たしている。


インダストリアルインターネット関連政策について(一部)

image.png

 

次にインダストリアルインターネット業界の急成長傾向である。国家政策のサポートを受け、20204月、インダストリアルインターネットは発展改革委員会によって「新インフラ建設」に組み入れられ、次世代インフラ建設となった。一方、疫病の発生と繰り返しにより、中国の制造業は最近2年間ずっと大きな試練を受けていたが、スマート製造(インダストリアルインターネットを含む)はある程度の面で操業再開と生産再開の問題を解决することができる。その間、スマート製造の需要の増加は依然として明らかである。これら2つの大きな要因のもとで、インダストリアルインターネット産業規模は万億を越え、「新しい革新分野」となった。


文本框: 成長率

文本框: 産業全体規模(億元)

文本框: インダストリアルインターネット産業全体規模及び成長率image.png

(データ出所:中国信息通信研究院)


3に、樹根互聯の中核競争力―研究開発である。すでに持っている能力から見ると、企業設立以来多くの技術を蓄積してきたが、産業用機器のソフトウェアとハードウェアの接続能力、産業用プロトコル、単一機器のモデリング、初期設定指標、汎用コンポーネント、産業用APPシステムの開発とアプリケーションの分野では、革新的な進歩を遂げ、設備製造、自動車、鉄鋼、化学工業に使用することができる。これらの分野は、インダストリアルインターネット川下の成長分野である。



image.png

(データ出所:MIR DATABANK

 

研究開発の実力から見ると、2021決算年度までに、樹根互聯のR&Dスタッフは697人で、企業全体の46.7%を占めた。技術資産の面では、樹根互聯は62件の特許を保有しており、そのうち開発特許は59件で、全体の95.1%を占め、そして141件のソフトウェア著作権がある。

研究開発投資の面では、2019年~2021年、樹根互聯の研究開発費用はそれぞれ8266.55元、16609.3528485元であり、3年間で3倍以上に増加した。また、この3年間の累計研究開発投資が売上高に占める平均割合は56.30%であり、これは同業他社をはるかに上回る数値である。樹根互聯は現在まだ技術の蓄積と製品開発の段階にあり、その事業規模は同業界の比較可能な企業と比べて一定の差がある。しかし、大量のお金をかかる背景には、樹根互聯の研究開発プロセスの必要性―製品の迅速なモデルチェンジを引き続くことである。


樹根互聯と同業他社の研究開発費率の比較

image.png

(データ出所: 樹根互聯目論見書)

 


関連話題



2022年の大学入学試験に当たって、全国の入学試験I試験問題に関するネット上の作文の討論を見た。この作文は囲碁の三つの用語「本手、妙手、俗手」を切込み点として、自分の思考を話すことを求めていた。碁を打てない人にはわからないかもしれない。そこで、試験問題の中では、この三つの囲碁用語についても説明した。「本手は、急所を突いた本筋の手で、一見足が遅いようであとあとまで一手の価値を失わない働きのある手のことである。妙手は、特に優れた着手のことを指す。俗手は、味の悪い手とか、一見すると得なようで、実は損な手などがある」。


image.png

 

三一集団の場合、この作文における三つの用語は、樹根互聯を育成する異なる段階を表す。育成の前期(育成段階が含まれ)には、樹根互聯は、三一集団にとって「本手」であり、苦境の中で変革し、理にかなっている。しかし、これまでの状况から見ると、表面は「俗手」だが、実際には「妙手」である。なぜなら、決算の損失が大きいにもかかわらず、多くのリスクがあるが、インターネット市場の潜在力とそれ自体の技術潜在力は無限である。

将来的には三一集団と樹根互聯にとって「妙手」よりも「俗手」の方が多いかもしれない。大きな環境から小さなプレイヤーを見て、樹根互聯は業界の課題を認識する必要がある。一つは、産業シーンが複雑で多様な為、設備のアクセス難易度が高く、各レベルの間のデータが通じにくい為、その技術の発展により高い要求を提出した。さらに、現在、中国多くの企業はデジタル化モデル転換初期にあり、各方面のレベルにばらつきがあり、工業データ収集の難易度が高い為、インダストリアルインターネット製品の複製性が低い。現在、業界内のプロジェクトの多くはカスタマイズ化を主とし、基礎的なプラットフォームの上で適性と二次開発を行うことができて、これは初期の大規模コスト投入をもたらし、後で一定の規模に使用してからやっと徐々に利益を上げることができる。

同時に、復雑で多様な産業シーンの為に、設備の種類が多く、設備データのディメンションが多く、新旧の設備が混在している等の問題は、設備の大規模な接続の困難を招いた。これにより、樹根互聯主要製品のスマート制造IIOTソリューションのコストが総コストの70%以上を占める。

 

image.png

 

これは、今、新しい顧客を開拓して大規模化効果を形成したいなら、前段階で大規模なコストを投入しなければならないことを意味して、顧客が多ければ多いほど、使用シーンはますます復雑になり、問題も多くなる。その為、樹根互聯のキャッシュフローが大規模な初期投資を支え、希望がもてるようになるのを待てるかどうかが問題となった。

もし投資家の視点から見ると、樹根互聯将来の最大の問題はやはり自身の競争優位をもっていなく、つまり目立った所がないこと。一つの業界の中で、一つの企業が多くの企業中で目立ちしたいなら、革新な製品やサービス・モデルを持つ必要がある。Appleのように、携帯電話という製品に対する人々の概念を徹底的に変え、ずっと業界の発展をリードし、絶えず消費者の概念を育成し、業界のトップとなった。そして、コストパフォーマンスも戦略の一つである。お客様のニーズを精確に把握し、低価格戦略でシェアを取り替え、自社事業を拡大する。Inovanceのように、完全で効果的な一連の顧客主導販売システムを構築し、低価格戦略で市場に参入し、発展可能性を獲得してから、国産品への代替を行う。

現在のところ、模索期にある樹根互聯はまだ将来の発展モデルを確定していないが、樹根互聯の実質事業はインダストリアルインターネットの最も難しい一環―インダストリアルインターネットの「デジタルベース」を構築することであり、その関連する構造は更に基礎的で、技術的な難易度も更に大きい。その為Appleのように革命的な技術的革新を行う可能性は今のところあまり大きくなさそうだ。

個人的には、樹根互聯はInovanceのような発展モデルを採用すると予想しているが、これも大部分中国企業の発展モデルである。ただ、今のところ、樹根互聯は技術の研究開発、製品サービス、人材の導入と育成等の面に注力しており、マーケティングシステムの構築はまだ未熟で、直販を主とする。すなわちマーケティングチームを通じて顧客を獲得して、そして販売チームのサービスを通じて再購入を実現する簡単なモデルを主としている。このモデルは、業界の拡大と顧客の開拓期にある樹根互聯にとって非効率的であり、コストも非常に高い。その為、激しい市場競争で同社が不利になっているように見える。

将来、樹根互聯は、より多くの顧客を穫得する為に、マーケティングのカバー範囲を拡張し、自身のマーケティング組織構造を再編し、複合型営業人材を導入と育成する為に大量の資金を投入する必要があると予想されている。

一言で言うと:「真の意味でインダストリアル・インターネットに向かって革新する樹根互聯の勇気は尊敬に値する」。 しかし、インダストリアル・インターネットの発展はそれほど順調ではない。その中で、オペレーティング・システムは高い技術力と継続した技術投資を必要とする。その為、樹根互聯の発展道のりはまだ長い。IPOは時間を稼ぐ策であり、出資者の「クラウドファンディング」によって企業発展の「チャンス」を獲得する。もし、樹根互聯が業界の「ユニコーン」企業になれば、この励志的な「発展」物語は、科創板の良い事例になる。