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中国企業が東南アジアに進出

「ニッケル」の前半生は誤解された前半生だった。


 

 

「ニッケル」源


「ニッケル」の前半生は誤解された前半生だった。

 

ニッケルと鉄は融点が近い為、最初は質の良い鉄と間違えられた。後にニッケルが錆びないという特徴から、嘗てペルーの先住民が銀と見なしていた。

 

ついに1751年、スウェーデン人のクロンスタットは、混合鉱物の表面の風化した結晶粒と炭を共熱し、ニッケルと命名された新しい金属を抽出し、「ニッケル」は自己証明の過程を完成した。

 

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2022年に入ると、世界最大の非鉄金属取引所LMEで壮大な「逼空(株価急騰後、ショートサイドに継続的な圧力がかかり、買いを余儀なくされたことを指す)大芝居を演じた。2022年3月7日から8日まで、短い2日間で、レンニッケル価格は29246ドル/トンから101365ドル/トンに高騰し、247%増加した。前例のない極端な値動きに直面し、LMEは3月8日当日にニッケル先物取引を停止した。

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かつて人に誤解された「ニッケル」から今大波を巻き起こす「注目されるニッケル」になるのは271年かかった。

 

ニッケルは先物市場でこのような大波を巻き起こすことができたのは、現代工業の2つのラインに関与している為である:

一つのラインは、ニッケルはステンレス鋼の原材料として、同分野に使用されるニッケルが市場全体の70%を占めており、我々が普段使用しているステンレス鋼の鍋や食器は全てニッケルに由来しており、この産業ラインは民生に非常に大きな影響を与えていると言える。

二つのラインは、ニッケルは現在人気のある新エネルギー車のリチウムイオン電池のコア材料として、三元リチウム電池に於いて、ニッケルは更に高いエネルギー密度と更に大きい貯蔵容量を提供できる。新エネルギー車用電池に使用されるニッケルはそのアプリケーション市場の7%しか占めていないが、推計によると、新エネルギー車の販売台数は2030年に2000万台を超える見込みで、その時に三元動力電池用ニッケルの量は89万トンを超える見込みであり、電池はステンレスに次ぐニッケルの第二の需要分野になる見込み。

 

「ニッケル」資源を掌握した者は、製造業の命脈を少なくとも一つ掌握したと言えるが、インドネシアの「ニッケル」産業の発展史もこの言葉を十分に裏付けている。

 

インドネシアの「野心」

 

1940年代に、インドネシアの南東スラウェシでラテライトニッケル鉱が発見されたが、当時の人々は、火山噴火や地震が頻発するこの地域で、発掘されたものが今後インドネシアの工業産業の構造を変える可能性があることを知らなかった。


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原材料輸出の考え方からヒントを得て、インドネシアのニッケル鉱石は最初に日本企業に輸出されて加工されるだけになった。その後、生産能力が立ち遅れていることに加え、旧鉱区の資源が枯渇し、新鉱区の製錬所の生産が遅れている為、インドネシアのニッケル産業はずっと生ぬるい状態になっている。

 

産業発展に関してはインドネシアは門外漢だが、「外国のお坊さんはお経を読むのがうまい」ということは知っており、そこでVCL(カナダ淡水河谷)やEramet(フランスのエホマン)等の国際鉱業会社を導入し、自国のニッケル資源の開発を援助したが、インドネシアの国産企業は株式加入の方式でこれらの外国鉱業大手と協力し、利益を得ようとする。

 

しかし、インドネシアのニッケル産業の真の運命の転機は中国のニッケル鉄産業の台頭によるもので、21世紀以来のニッケル価格の高騰は、世界のステンレス生産能力の生産量と消費量の半分以上を占める中国企業と消費者を圧迫している。中国は製錬プロセスの改善を開始し、独自に開発した高炉低ニッケル鉄(NPI)と改良版RKEF製の中高ニッケル鉄(FiNi)は製錬コストを抑え続け、2008年の金融危機の影響も加わり、ルンニッケルは暴落した。

 

ニッケル下落の東風に乗って、中国企業は東南アジアのニッケル鉱石が豊富な国で「大量購買」を行い、インドネシアやフィリピン等に大儲けさせた。

 

資源を売って稼いだのは楽に手に入る金だが、インドネシアは資源がいつか枯渇することをよく知っている。もしインドネシアが資源だけに頼るなら、いつか末路をたどることになる。そこで2009年、インドネシアでは新しい鉱業法が公布された。2014年までには「加工した」鉱物のみを輸出できるようにし、原鉱と半製品鉱は一律に輸出を禁止するようにした。採鉱企業が鉱物採掘資格を維持する為には、インドネシア現地に加工製錬施設を建設しなければならない。政策は、これにより、インドネシアに外資を誘致して製錬所を建設し、インドネシアの輸出品の工業付加価値を高めることを狙っている。

 

インドネシア政府はニッケル鉱の禁止によって産業のアップグレードを迫る前に、2022年にLME壮大な「逼空」大芝居の主役である青山控股はインドネシアで4.7万ヘクタールのラテライトニッケル鉱を購入し、かつ30億ドルを投資し、スラヴィシア島にニッケル鉄工業園を建設した。禁止令が始まった後、少なくとも9つの新しい製錬所がインドネシアに建設され始めた。恒順電気、徳龍業等の中国企業は、いずれもこの時期にインドネシアに進出した。

 

これらの鉱業大工場がインドネシアに進出したほか、この「黄金のような地域」は新エネルギー企業にとっても垂涎の的だった。2018年から現在まで、中国の新エネルギー関連企業6社がインドネシアでニッケル産業プロジェクトを投資し、約千億元の資金に及んでいる。

 

インドネシアの最近の中国投資は、2022年4月14日、寧徳時代の持株子会社広東邦普傘下のの普勤時代と、インドネシア企業ANTAMとIBIは三者協議に調印し、総額が59.68億ドルを超えないプロジェクトを投資した。特に、寧徳時代の競合他社であるLGグループは、僅か4日後にインドネシアの国営企業と予備的な合意を締結し、約90億ドル(約573.5億元)のプロジェクトを推進し、インドネシアで電気自動車の電池サプライチェーンを構築する。

 

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(インドネシアに於ける中外ニッケル産業の分布図)

 

「インドネシア」は新エネルギー大手が競い合う「修羅場」になりつつある。

 

 

中国と競争しようとする

 

2021年、インドネシアのステンレス生産量は500万トンに接近し、2022年生産量の成長率は30%を超え、インドを追い抜いて世界第2位のステンレス生産国になる。インドネシア政府はステンレス産業の発展が実質的にピーク期に達したことをよく知っている。ニッケル産業への全ての投資を羊の群れに、新エネルギー車用電池を羊小屋に例えると、インドネシア政府の戦略は、全ての羊を羊小屋に追い込むことである。2009年の禁止令を見ると、インドネシアは資源を売るだけの愚かな国になることに満足したことがなく、中国に代わって世界の新エネルギー車の電池産業の中心地になることを目指している。

 

インドネシアの野望は妄想ではなく、最大の資本はニッケル資源を豊富に保有していることである。総量を見ると、インドネシアニッケル鉱業協会(APNI)のデータによると、2021年までに、インドネシアネシアの実測埋蔵量は僅か46億トンで、世界1位にランキングされる。増加量を見ると、2015年-2020年までの全世界のニッケル鉱の埋蔵量の増加量は約1700万トンで、インドネシアは1650万トンを占めている。インドネシアはニッケル鉱山に座っている国と言っても過言ではない。

 

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(世界的なラテライトニッケル鉱の分布図)

 

しかし、資質が優れているので、後天的に期待通りに発展していくとは限らず、インドネシアは中国と新エネルギー車の電池産業の中心地を争うにはまだ距離がある。

 

まず根本的な問題は、インドネシアのニッケル資源はどれくらいの期間消費できるか?

 

インドネシアニッケル鉱業協会(APNI)のデータによると、インドネシア鉱原料の需要量は年間2.55億トンに達する見込みである。インドネシアの46億トンのニッケル鉱石の実測埋蔵量を推計すると、インドネシアのニッケル業界は最大18年間しか生産を維持できないと予想されている。これは、僅か17億トンの高級ニッケル鉱石(1.6%以上)の場合でも同様である。

 

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2022年測定したインドネシアの純ニッケル総埋蔵量)

 

実際にインドネシアの資源消費期間が18年を超えないのには、2つの理由がある:

第一に、インドネシアのニッケル埋蔵量のデータは実際には公表されているほど大きくない。なぜなら、探査報告書を提出した鉱山は約三分の二にすぎず、報告書を作成できる資質のある地質技師はその60%にも満たせず、その為、全てのデータを公表することは信用できない。第二に、経済的に定義された資源製品そのものの代替性も、資源型産業の時間的制約を助長する傾向がある。資源がある程度採掘されると、そのコストが上昇し、それに伴って市場価格が上昇し、市場には価格の低い代替品を選択する傾向にある。

 

したがって、インドネシアは18年足らずで新エネルギー電池産業の配置を完成させ、中国の同市場での追い越しを完成させる必要がある。この超越の難しさはどのくらいか。比較して見ると:中国は2001年に国家新エネルギー車重大科学技術特別プロジェクトがスタートし、2007年に「中国新エネルギー車生産参入管理規則」が正式に実施され、中国は新エネルギー車発展元年に入った。その時から今日まで、中国が新エネルギー車産業(動力電池を含む)に参入して15年になる。一方、インドネシアのこれまでの新エネルギー車産業はまだ実行に移していなく、LGの電池工場は建設されたばかりで、他のメーカーはまだ遠い。

 

インドネシアの禁止令は2009年から施行され、禁止令の有効期間は2014年まで延長されており、更に繰り返される可能性がある。インドネシアは、禁令が発効した少なくとも五年間に、大量の鉱業関連川下産業を発展させる計画で、現在、高望みしているようだ。ニッケル鉱石を例にとると、インドネシアの電力供給の80%は人口密集地のジャワ島とバリ島に集中しており、ニッケル鉱石の72%は遠隔地のスラウェシに分布している。コストを抑える為には必ず鉱区に工場を建設しなければならず、こうなると、電力、資金、技術、労働者が問題となり、インドネシア政府の協調能力が大きく試されることになる。

 

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(インドネシアに於けるニッケル鉱石の分布図)

 

次に政治ゲームの問題である。中国と比べて、インドネシア政府の全体的なコントロール力はそれほど大きくなく、各方面の利益に配慮しなければならず、政府はゲームの一方にしかない。インドネシア政府は過去に立法したものの施行されない黒歴史が多い為、インドネシア鉱業界も禁止令が実際に実施されることはないと考える。鉱業は政府を妨害し、製錬所の建設を引きずっているだけでなく、様々な方式で採鉱法に反対している。解雇された数百人の鉱山労働者が首都ジャカルタに駆けつけ、抗議の声を上げて、労働組合会のボスは、「政府が禁止令を執行すれば、全ての鉱山労働者が街に出て大統領府を包囲することになる」と言った。

 

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たとえ禁止令が順調に施行されたとしても、高い代価を払うことになる。2021年にはインドネシアの鉱業は全国GDPの約7%を占める。2012年、インドネシア鉱産物の輸出額は379.2億ドルに達し、輸出総額は約16.38%を占め、採鉱業界に従事する労働者は更に数百万に上る。鉱産物輸出を禁止すると、インドネシアは数十億ドルの外貨収入を損失し、80万人が失業を招くと予測している。2009年の禁止令は結局、インドネシアの鉱業、政府及び議会の駆け引きと妥協の下で、仕方なく「割引」バージョンの禁止令を出した。以下のように規定された:輸出する鉱物製品の「加工程度」の要求を下げ、製錬所を建設する意思を「証明」できる鉱物企業は、今後3年以内に再び半加工形式でこれらの鉱物を輸出することができる。残念なことに、「割引」された鉱種にはニッケルは含まれていない。

 

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2020年インドネシア鉱業改正法)

 

第三に、インドネシア政府は赤字が長年高止まりしている政府であり、2021年のインドネシア政府予算の赤字率は5.7%(通常は3%前後)である。同年の中国政府の赤字率は3.2%だった。赤字率が高いことは、米国等の先進国が量的緩和等により赤字循環を行うことができない限り、政府が新エネルギー関連インフラを整備するに対して非常に不利である。先進国の実力がなければ、政府が赤字率を強制的に拡大し、負債を抱えながら布石を打つことは、医療、教育、都市計画等他の国民経済分野の財政支出を圧迫し、民間の反発を招くことになる。

 

また、インドネシア国家の発展は長期的に外国資本に依存しており、国産企業の潜在力と競争力はいずれも高くなく、掌握しているのは一部の良質な鉱源と一部の普遍的に流行している製錬技術だけであり、自国の国産新エネルギー車産業は現在まだ空白にある。従って、インドネシアは外来資本を利用して自国の産業の発展を促進したいことは一定の束縛を受け、インドネシアが鉱産物を提供するが、外資企業がコア技術は懐を傾けて教えることができず、インドネシアは技術を獲得する為に、自分で一歩一歩ゆっくり研究開発することしかできない。

 

大面積採鉱はインドネシアの環境破壊が大きく、政府がどのように経済発展と生態環境の間の重みをバランスさせるか、中国のように「緑水青山は金山銀山」の理念を徹底的に貫徹するかどうかは政策決定者たちの决意にかかっている。ポピュリストが環境問題を利用して政府と交渉し、一部の産業プロジェクトの建設を危うくすることが懸念されている。

 

今後、インドネシアは新エネルギー電池産業の面で中国に潜在的な脅威があり、当局者たちもインドネシアの資源優位性を大いに宣伝しており、まず羊を羊小屋に追い込んでからにしようと考えている。新エネルギー産業への大規模な投資はインドネシアにとって当然良いことであり、第一に経済回復、第二に労働力雇用の増加、第三に輸出入データの改善に有利である。しかし、インドネシアが解決しなければならない問題も多い。未来の無限の想像力を持つ産業として、中国は必ず新エネルギー車の電池分野で地位を維持し、長期的にを見ると、中国が優位に立つ。

 

中国企業が注意すべき事について


インドネシアに投資している中国企業は、2種類に分けることができる。

一部は青山、徳龍等のインドネシアに早く布石を打った企業であり、これらの企業は現在インドネシアの鉱山資源を先取しており、既にいくつかの中小ニッケル鉱山の株式を取得しているか、間もなく取得しようとしている。株式取得は資源を結びつける最も頼りになる姿勢だが、コストも最も高い。現在の鉱山株式の設定価格は既に高過ぎており、その中にはJORC(鉱物埋蔵量合同委員会)が報告した鉱山が極めて少ない。

一方、メーカーが鉱山権を手に入れてすぐに着工できるかどうかは、地元政府が決まる。また、インドネシア政府の幻の統計方式に鑑みれば、実際の埋蔵量がどれだけあるのかも問題で、投資に来た企業は運試しをし、最後に宝地を手に入れることができるかどうかが分からない。これらの問題に囲まれた中資企業(中国内の自然人、法人及びその他の組織が国内または国外で投資するあるいは持ち株投資する企業を指す)は困難に直面しているが、財力、人力、物力を大量に投入しなければならない。

 

新たにインドネシアに進出したり、間もなくインドネシアに投資したりする他の一部の企業にとっては遅れをとるかもしれないが、インドネシアには、所謂「良い鉱山」があまり残っていないのも事実である。多くのメーカーの責任者は、「大量の設備に出かけると三カ月しか鉱山がなくなっても問題である」と不満を抱いていた。しかし、「資源に富んでいる地域」として、かつ今後数十年以内にニッケルリソースは大量消耗するので、先に来た者にしても、後から来た者にしても、資源を奪い取らなければならず、奪うのが多いのか少ないのか、あるいはほとんど手に入られないのかは、各自の実力次第だ。

 

もし既に参入し、プロセスの選択の上で、できるだけコストを下げることができる新技術と新プロセスを採用し、あれらの火法制錬(RKEF)を主とする企業は参入しないほうがいい。参入したくても既存の発電所の許可文の鉱山を探して協力し、しかも産出した中間品を高氷ニッケル(高氷ニッケル酸の消費が低く、コストが低い)に転向しなければならない。もしある企業は面倒を恐れ、ならば最も良い選択は湿式製錬(HPAL)のようで、しかし近年湿式製品ラインは生産量が最大になる傾向があり、MHP(水酸化ニッケル、湿式プロセスに産出した中間品)のように年産30万トンの生産能力は相当な量である。

 

注意すべきなのは:各大手企業は生産技術に大きな工夫を凝らしているが、世界の三元電池市場シェアがまだ低下するリスクを冒しなければならない。いったん今後の三元電池が市場からは疎外されていると、これらの心血を注いだ生産ラインは本当に「無駄」になる。

 

最も理想的な方式はもちろんインドネシアに来て鉱山を買収して鉱主になることであるが、上述したように、ニッケル鉱の非常に重要でありながら手軽に手に入る資源は既に摘み取って、大量の時間と精力を必要とし、人的・物的・財力を注ぎ込む。間もなくインドネシアに進出する企業はこの点に対して十分な心構えを持たなければならない。