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Inovanceの新エネルギー車「野望」

没頭すれば報われる


Inovanceの新エネルギー車事業部門はいつ黒字転換を迎えるのか。これは多くの業界関係者がInovanceに聞きたいことである。これに対して、Inovance副社長の宋君恩は、次のように述べた:「今年(2022年)の目標は、損益均衡を達成することである。」

 

実際、Inovance宋副社長の発言は根拠のないものではなく、投資家を安心させる為の発言でもない。新たに発表された2022年第1~3四半期のInovance新エネルギー車の業績を見ると、業績の全体状況は楽観的である—売上高は32.65億元で、前年同期比83.3%増加した。Inovance他の事業の成長率と比較すると、新エネルギー車事業はこの半年間、急成長している。


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(Inovance各事業の前三四半期の業績)

 

しかし、このような急成長の中で、業界関係者は様子見を続けている:

Inovance新エネルギー車事業はどのように展開しているのか?

Inovanceが新エネルギー車分野で台頭する要因は?。

Inovanceの新エネルギー事業は2022年に黒字化できるのか?

今回は、MIR睿工業の工業自動化分野での深い経験を踏まえて、皆さんが関心を持っている質問に対して回答させていただきたいと思う。

 

 

利益がなくてもやる事業

 


国内の不動産業界の飽和に伴い、エレベーター業界の成長が鈍化し、これはエレベーターの自己制御製品の好況期はすでに過去のものになったことを意味し、Inovanceは新しい事業分野-ロボット、軌道交通、新エネルギー車に目を向けた。

 

Inovanceの成長戦略を見ると、産業用ロボットと新エネルギー車事業は期待されていなかった。その理由は非常に簡単:粗利が低い。全体の利益率を見ると利益がないだけでなく、損失の可能性もある。

 

期待されていなかったけれども、Inovanceはこの2つの事業を展開し、そして徐々にその成果を見せた。2021年にInovanceロボットはブームを迎えた。MIR睿工業の統計によると、2021年InovanceのSCARA ロボットは中国市場で14%のシェアを獲得し、全体で3位、ローカルメーカーで1位となった。

 

産業用ロボット事業は長年の発展を経て、ようやく成熟したが、新エネルギー車事業はうまく発展できなかった。2008年にInovanceは新エネルギー車業界に参入し始めた。その時ちょうどTesla最初モデルのTesla Roadsterがラインオフして納品が始まったばかりで、そして当時の中国市場では新エネルギー車に対する普遍的な概念がまったくなかった。その後、新エネルギー車の発展状況から見ると、Inovance当時の戦略は「鋭い」と言える。(2020年コロナの前に、Inovanceが「先見者」のように大量のチップを買いだめ、一気にローカルメーカーのリーディングカンパニーとなったのも無理はない)

 

2016年、Inovanceは新エネルギー車分野に全面的に進出し、新エネルギー乗用車分野に参入し、数十億元の研究開発費を次々と投入した。当時、Inovanceの朱興明会長はさらに:「将来的には、研究開発資源の半分が新エネルギー車に投資される可能性がある。同時に、会社収益の半分が自動車業界からもたらされることも期待している。"と言った

 

 

初期の目標は「生き残る」!

 


実際、当時の朱興明は勇気を持ってこのことを発言した。Inovanceは汎用自動化製品事業からスタートした企業として、新エネルギー車分野に進出する際には主にモーター制御類製品と電源類製品という2種類の製品に取り組んだ:。そのうち、Inovanceは電子制御類製品に注力しているが、産業用ロボット製品とは異なり、電子制御類製品の市場構造はやや奇妙に見える。

 

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(図:Inovance新エネルギー車製品)

 

電子制御市場の奇妙なところ:市場が大きく、競合も多い。

 

規模の大きい市場:2021年、中国の新エネルギー車の生産・販売はそれぞれ354.5万台と352.1万台に達し、同期比1.6倍増加した。自動車1台あたりの電子制御システム1つで計算すれば、この市場は千億(元)を超える規模になる。中国市場では、これほど規模の大きい業界は非常に少ない。

 

2012年─2021年の中国新エネルギー車生産規模

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競合が多い:自動車の電子制御技術の障壁が低い為、参入者が非常に多く、競争も非常に激しい。一部の完成車メーカー、例えばTesla、BYDも参入した。また、電気駆動製品の速い技術革新、高集積化、高電圧、高回転速度等の特徴により、企業は大量の持続的な研究開発投資を行う必要がある。

 

規模の大きく、競争も激しい新エネルギー車の電子制御市場に直面して、Inovanceには汎用自動化分野のような「優位」(安聖電気)がなくなってしまった。どうするのか。

 

Inovanceの新エネルギー車事業、「沈殿」が必要。

 

2012年~2016年、小手調べとして、Inovanceはすでに一部の伝統的な自動車メーカーに電子制御製品を提供した。自社の自動化技術と電子制御システムの技術の優位性と比較的良好なサプライチェーン管理能力によって、Inovanceは多くのメーカーの中で成功に台頭した。2012年、Inovanceは宇通客車と3年間の戦略的提携契約を結び、主駆動モーター制御製品を独占供給した。2015年の契約終了後、2018年まで3年間契約を延長した。この安定した受注により、Inovanceの新エネルギー車事業は発展の初期段階で生き残り(2016年に中国自動車業界協会が発表した関連の新エネルギー車生産販売データによると、宇通客車の市場シェアは細分化された業界でトップ地位を維持していた)、その後の発展の基礎を築いた。

 

同社最大の顧客は宇通客車であるが、実際には2008年~2011年、同社はもともと新エネルギー乗用車のモーターコントローラーの開発、生産と販売に注力すると計画していた。新エネルギー商用車は利用者に制限される為、市場は限られており、将来の広大な市場は新エネルギー乗用車に属するに違いない。しかし、走行距離への不安、政策推進の不足等の原因により、当時、中国国内の新エネ乗用車の発展速度はずっと遅く、このような環境下で新エネルギー車事業計画の推進は予想よりも遅かった。

 

2016年前後、中国の新エネ車市場が徐々に台頭するにつれて、Inovanceは安心して新エネ車の分野に参入し始めた--しかし、参入してから、新エネ車の電子制御市場で発展することは難しいことを意識し、自社の技術転換、サプライチェーン上の優位性は、巨大な市場では、普通のものとなった。

 

業界側では、当時新エネルギー車市場(主に新エネルギー乗用車)はまだ成長段階にあった為、電子制御市場の需要は限られており、大量生産販売を通じて投資を回収し、コストを削減し、収益を上げることが難しかった。そして、新エネルギー車メーカー自身や関連メーカーが電気駆動システムを生産する傾向がますます顕著になり、これが既存の第三者サプライヤーの市場空間をさらに圧迫していた。

 

研究開発と政策の面では、電気自動車のコストが高すぎて、新エネルギー車の補助金が減少し、2018年から新エネルギー車市場は低迷となった。各大手自動車メーカーの新エネルギー車販売の利益はあまり楽観的ではなくて、その結果、川上のサプライチェーンのコストに対する要求が厳しくなっていた。

 

その為、Inovance初期の新エネルギー車事業の発展は、志を高く持っていたが、効果はあまりない--ただ新しい機会の出現を待つことしかできない。

 

 

自動車メーカー新勢力の参入

 


2014~2015年は新エネルギー車の時期であった。中国国内の革新のない伝統的な自動車業界の様子を見て、多くのインターネット起業家は「白馬の騎士」となり、自動車業界に参入した。2014年から、新エネルギー車メーカーの蔚来、小鵬、理想汽車が相次いで参入し、新エネルギー車分野に新しい血を注ぎ込んだ。

 

2021年になると、中国の新エネルギー車市場は2018年以来3年間続いてきた「低迷期」を終え、本格的な爆発段階に入った。新勢力の自動車メーカーは、インターネット企業の意思決定のロジック、メカニズムの変化、ユーザーの考え方を新エネルギー車業界にもたらし、さらに背後にインターネット資本の強力なサーとがあり、成長が急速であった。市場競争状況も「三国殺」の構造を形成した:蔚来、小、理想の三つのメーカーを始めとし、年間販売台数が十万ぐらいに達した。そして、哪吒、威馬、零跑も積極的に事業を展開している。


このブームに乗って、Inovanceは何年も待っていたチャンスがついに来た!

 

中国本土の自動車製造の新勢力はまだ上昇段階にあるが、一部のサプライチェーンのモジュール、例えば電子制御システムはまだ完全に把握することができなくて、第三者のサプライヤーと協力する必要がある;Inovanceは長年の技術の蓄積を経て、電子制御製品は新エネルギー商用車の製品で絶えず試用されて、生産技術はすでに成熟した。

 

だから双方の間に需要と技術のバランスがあり、協力するのも当然なこととなった。

 

2021年7月30日、Inovanceは投資インタラクティブプラットフォームで、小鵬、理想、威馬に電子制御製品をに提供し、今後はモーター、3 in1電子制御、電源等の製品が販売されると明らかにした。その中の2021タイプの理想ONEは既にInovanceの新しい3-in-1電子制御を採用し、そして2021年上半期にInovance電子制御製品の出荷量に貢献した。

 

2021年~2022年上半期のInovance新エネルギー車事業部門の業績を見ると、自動車メーカーの新勢力がその中で重要な役割を果たしていた。最近のデータを見ると、Inovanceの2022年1~8月の乗用車の電子制御搭載台数のうち、理想、小鵬等の新勢力が70%近くを占めた。

 

Inovance2022年1─8月乗用車電子制御搭載数量

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注目に値するのは、自動車メーカー新勢力が今はInovanceの新エネルギー部門の大口顧客である。Inovanceは現状に安住せず、自動車メーカーの新勢力だけに依頼することはない。2022年のInovance新エネルギー車事業の第3四半期の業績では、新勢力顧客への8-9月の販売台数が相対的に圧迫されていることが明らかになった。一方、伝統自動車メーカーの長城、広汽等2022年の割合は絶えず上昇しており、自動車メーカー新勢力へ販売台数が少ない影響を相殺できる見込みがある。その為、現在Inovanceの生産能力が十分であることを考慮すると、多様化する顧客戦略と相まって、第4期は比較的速い成長を維持すると期待される。


Inovance台頭の要因?


 

本文の初めに、Inovanceの宋さんは2022年に新エネルギー事業の損益均衡を実現することを提案し、業界関係者の中には黒字を達成すると予測している人もいる。ではこれらの言論を支える原因は何だろう。

 

それならば、新エネルギー事業におけるInovanceの「三つの優位」を言わざるを得ないだろう。

 

この第一の優位性は、技術にある。Inovanceは新エネルギー車の分野に参入した時、主に顧客にモーターコントローラーを提供していたが、次第に新エネルギー商用車市場で足場を固め、その後また巨額を投資して新エネルギー乗用車の分野に参入し、今では「モーター+電子制御+変速機」のパワートレインシステムを提供することができるようになった。

 

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(図:Aクラス「3in1」パワートレインシステム)

 

これは新エネルギー車のモーターコントローラーからパワートレインへの質的変化である。

 

製品生産の進化の面で、Inovanceは最初に江淮と衆泰と共同でいくつかのプロジェクトを開発して、そして大量使用し、その後商用車の分野に入って、世界最大の客車メーカーの宇通の協力を通じて、自分の商用車の製品ラインを開発し、完備した。近年、Inovanceは宇通と協力して多くの競争力のある製品を開発した。特に「5in1」等を含む車両の完全統合パワートレインの概念は人々の心に深く浸透して、現在すでに国内のトップの新エネルギー客車コントローラーのサプライヤーとなった。

 

研究開発から見ると、新エネルギー車分野におけるInovanceの製品研究開発者は600名を超え、各事業のうち第一位である。また、Inovanceは今後、この分野でも引き続き人員を募集し、1000名程度まで研究開発者の拡充を見込んでいる。

 

現在まで、Inovanceは、研究開発への多額投資により、電気制御、モータ、電気駆動アセンブリ、DCDC電源、OBC電源及び電源アセンブリのソリューション、特に高速化、高圧化、炭化珪素(Inovance等の資本は第三世代半導体炭化珪素基板企業河北同光晶体に投資し、そのサポートにより数億元Pre-IPO輪融資を完成した。炭化珪素基板はInovanceの新エネルギー車の製品に一定の性能向上とコスト最適化をもたらすことができる)等の新技術と方向のソリューションを次第に形成した。それにより、Inovanceは業界トップとなった

 

この第二の優位性は、生産能力にある。Inovanceは自動化分野での長年の蓄積により、新エネルギー車事業の生産において「研究開発+生産ラインの配合」の戦略を採用し、良い成績を収めた。2016年9月、Inovanceが開発した10万台目の新エネルギー車用モーターコントローラーがラインオフし、単一の電子制御からパワートレインへと転換を実現した。2020年、Inovanceの新エネルギー車電気駆動全体の搭載台数は135.7万台に達し、中国国内の同分野の第三者サプライヤーの中で上位を占めた。

 

それだけでなく、Inovanceは新エネルギー車事業に投資し、常州新エネルギー車プロジェクトを建設した、現在すでに第二期に投資した。計画総投資額は30億元を超えない。注目すべきのは、常州新エネルギー車プロジェクト(第一期)は、現在、稼働し初めており、現在の販売状況から、常州新エネルギー車プロジェクト(第一期)は2022年に計画生産能力に達すると予想される。

 

最後に第三の優位性は、Inovance自身の新エネルギー車発展に対する戦略にある。砦は内側から崩すのが最も簡単であることを知り、新エネルギー車事業の管理モデルが他の事業と異なることを考慮して、Inovanceは2021年に新エネルギー車事業に関連する資産、負債等の内部再編を行い、同社の自動車事業の枠組みを最適化し、子会社の連合動力を新エネルギー車事業の独立経営実体とした。

 

次に、新エネルギー車産業はまだ発展の初級段階にあり、各車種がに対する製品の設計を変更する必要がある。この特徴を捉え、Inovanceは顧客主導の「迅速なフィードバック」、すなわち販売-研究開発-販売システムを新エネルギー車事業にコピーした。具体的に言えば、顧客の車種に基づいた大量生産により、受注が爆発的に増加することを期待している。新エネルギー乗用車の分野では、新勢力顧客のほか、国際自動車メーカーも近年のInovanceの重点注目対象である;新エネルギー商用車の分野では、同社は大手顧客への大量販売と新製品の効果的な普及により、受注も急速に増加した。

 

結果としては、このシステムは、多額の研究開発投資により、高速反応チェーンを作り出す。それに加えて、Inovanceは現地化の優位性を持っていて、それにより、コロナでのロックダウン、チップ不足、原材料価格の上昇等外部の不利な環境の下で依然として迅速に顧客の需要に応答することができる。

 


まとめ


 

Inovanceの新エネルギー車事業の発展の軌跡を振り返ると、私たちがよく言っていることは:Inovanceは物事をあらかじめ感知することができる。この感知は中国本土市場全体の大きな環境と新エネルギー車業界の小さな環境の変化に対する洞察によるものである。

 

中国本土の市場環境の変化は国家経済の発展にあり、インフラ整備が徐々に整い、これは多くの新興市場の発展に适した土壌を提供した。企業がボトルネックに陥って、経営策略、技術の研究開発に依頼しても一歩踏み込むことができない時(Inovanceエレベーター業界)、常に新しい分野が開発を待っている--チャンスがある時、企業はただ順応することで、第二、第三回の成長を迎える。

 

新エネルギー車分野は、将来性が明るいが、発展の道は曲がりくねっている。現在、この市場はそれほど大きくなく、そして参入者も多く、競争も激しい。各メーカーがこの市場からシェアを獲得するには、戦略、価格や技術に依頼することが必要。理想的な状態は技術を基盤、戦略で実行、価格(コストパフォーマンス)で競争する。

 

近年、Inovanceは産業用ロボット分野でも新エネルギー車分野でも、戦略がはっきりしている:企業を拡大する。発展の方向は生産を拡大し、商品を販売し、市場を占領し、さらに産業チェーンの川上・川下に拡張することである。そして、自社の新エネルギー事業に対して、実行力が非常に高く、長年の不採算状况に直面しても、中途半端ではなく、引き続き投資してゆっくり基盤を強化し、苦境から抜け出す。

2022年通年で展望すると、Inovanceは国内の新エネルギー車電子制御市場でさらに自身の影響力を強化すると同時に、徐々に欧州、南アジア、東南アジアへと発展し、製造の海外現地化を実現する。このような大きな戦略を背景に、MIR睿工業も2022年通年でInovanceの新エネルギー車事業が損益均衡または単純に利益をあげると予想している。

 

おそらく将来、Inovanceは朱興明会長の想像のように半分の収入は自動車業界からで、安定して自社の事業転換を実現するだろう。この日は遠くないと信じて、期待しよう!