業界観測

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安定すると思うな!チップ市場の需要反転で半導体製造装置メーカーが抱える懸念

景気回復が期待されていた際に、半導体市場に新たな変化が現れた。



2022年も半ばを過ぎ、上海の閉鎖解除、長江デルタの全面的な操業再開、電子商取引(EC)の618ショッピングフェスティバルが中国経済を刺激できるかどうかについての話題が注目されている。景気回復が期待されていた際に、半導体市場に新たな変化が現れた。

山雨来たらんと欲して風楼に満つ。6月に入っていない時に、MTKとQualcommは2022年下半期のチップ受注量を約10~30%下方修正した。ほぼ同時に、AppleとSamsungも2022年の携帯電話の出荷目標を修正し、Appleの携帯電話は2.4億台から2.2億台に、Samsungの携帯電話は3.3億台から2.8億台に下方修正した。中国国内でアンドロイドシステムを搭載している携帯電話はXiaomi、Oppo、Vivo、Honorなどで、更に前から既にサプライチェーンに約20%の受注量を下方修正した。

大型工場の受注削減は半導体市場の「ドミノ」に触れる一つの要因にすぎないようである。Q3は本来、コンシューマーエレクトロニクスの従来のオンシーズンであるが、産業チェーン全体では「オンシーズンで忙しくない」という現象が出現した。TSMCの3社の大口顧客であるApple、AMD、NVIDIAは珍しく同時に受注量を下方修正した。続いて7月1日、某メディアによると、世界の上位MCUメーカー5社の製品が大幅に値下げされ、MCUもドライバIC、パワーマネジメントIC、CISセンサーに次ぐ値下げ・受注削減の半導体製品になった。然し、これまでのMCU価格は堅調で、供給が需要に追いつかなかった。


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(図:半導体の一部の製品に於ける2022Q2以来の市場状況)

 

2020年Q2以降、様々なチップ価格が高騰した情報を思い起こさせる。半導体業界で、供給が需要に追いつかないという状況が現れた:半導体の川下末端価格が大幅に上昇し、大量のチップがチャネル業者の手にストックされた;一方は、チップ会社の社長が市場シェアを維持するためにFAB(ファウンドリー)の営業担当者にひざまずいて生産能力を確保するという噂である。噂に過ぎないが、チップ会社が生産能力を確保できないことへの不安は、業界全体で共通の現象である。

わずか2年後、チップ市場は需要の反転状况が現れ、チップの価格は高騰したが、依然として狂ったように奪われる場面はかなり昔のことみたいである。


半導体産業チェーンの構造的差別化

 

実際に、各大手電子製造メーカーが受注量を下方修正するのは当然のことである。原因の1つは、2021年に景気が緩やかに回復し、1~10月の半導体産業チェーンの各末端メーカーの業績が好調であるため、11月~12月に2022年のKPIを作成する時、自然に目標が高めに設定された。

然し、2022年に入って以来、春節効果(春節が消費ブームを牽引すること)の失敗、携帯電話の需要の低迷、グローバルなインフレーションによる消費者の購買力の低下、各種電子製品の供給不足、末端需要の低迷などの問題が次々と現れた為、多くのIC設計会社の手にあるチップの在庫が、人気があるものから誰も欲しくないものになり、コンシューマーエレクトロニクス関連のチップも売るために値下げし始めた。

世界第4位のパソコン・ブランドであるAcerの陳俊聖会長は、半導体の市場状況は急速に反転しており、以前のチップ不足の状況はもはや見られなくなり、最近では、AcerがもっとICを購入することを希望するチップサプライヤーからの電話があり、以前のチップ不足時のチップメーカーの態度とは大きく異なると述べた。

戦争や封鎖を口実に、出荷目標や業績目標を下方修正する企業があると予想されていたが、調査を通じて実際にこうした突発的な事態が起きなくても、それらの企業も出荷目標や業績目標を下方修正することが明らかになった。これは、半導体市場の需要反転が外的要因のショックによる直接的なものではなく、市場に於ける内因性の需給関係の変化によるものであることを示している。

半導体のQ2以降の変化を調査する時、半導体産業チェーンが構造的に差別化していることが分かった。一方で、川下の汎用類とコンシューマーエレクトロニクス分野のチップの値下げ幅が目立った。その中で、メモリーチップの価格は2021年下半期に引き戻して以来、2022年Q3にも依然として供給が需要を上回っていると予想される。顧客の商品引取意欲を刺激するため、消費者向けMLCC(チップ積層セラミックコンデンサ)の価格はQ2に既に3%-5%下落し、下半期の値下げ圧力は依然として小さくないと予想される。汎用類のMCUチップも比較的に大きな値下げ圧力に直面しており、現在、STMicroelectronics、Infineon、Texas Instrumentsなどの汎用類MCUチップメーカーの見積価格は既に大幅に下落し、STMicroelectronicsの汎用類MCUチップの価格は既に3月の70元から32元に下げた。全体的に言えば、汎用類とコンシューマーエレクトロニクス分野はマクロ経済とPC、携帯電話などの川下需要の影響を大きく受け、業界の景気の下振れ圧力が絶えず強まっている。

一方、川下の自動車用チップの供給はある程度圧迫されている。現在、自動車用IGBTの納期は50週間又はそれ以上で、需給ギャップは40%-50%に達すると同時に、自動車用MCUチップの納期は既に40週間を超え、納品の圧力が大きい。これに対し、自動車用チップ大手のSTMicroelectronicsは、MCUチップの価格を再び引き上げた。同社は18ヶ月の受注を持っており、2022年の生産能力計画を遥かに上回っている。値上げしながら受注が積み重なることは、自動車販売が回復している時にも珍しいことではない。そのため、全体的に車両用チップは一定の供給圧力を受けるが、自動車用チップの景気は比較的堅調である(特に新エネルギー車によって推進される)。

 

ローカル半導体装置メーカーは安定すると思ってはいけない


中国大陸では、ウェーハ工場の新規生産能力が徐々に拡大するにつれて、ローカルメーカーの国産による代替が続いており、半導体装置分野の景気は依然として高水準を維持している。2022年Q1以来、中芯国際、日月光、盛合晶微などの企業は次々と工場の建設に投資し、生産能力を拡大した。


2022年Q1半導体の主要プロジェクト動向

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(データ出所:MIR DATABANK

 

ここ数年、中国の半導体装置業界は急速に発展しており、各種の新製品絶えず発表され、各メーカーは技術変革に力を入れて前進し、新しい生産ライン又は新しい生産設備の設置を通じて生産を加速させている。ローカル設備メーカーは28nm生産ライン上で既に多段階の設備の大量供給を実現しており、いくつかの会社、例えば北方華創に於けるシリコンエッチング機、洗浄機などのプロセスの設備は既に14nm生産ライン検証と小ロット供給を実現した。国内の半導体業界は、今後数年間、比較的安定した成長段階(特に国家が重点的に支援しているLED照明業界)にあり、その際、ローカル半導体装置メーカーも業界の大勢に沿って発展していくと予想される。

MIR睿工業は中国大陸の半導体装置市場の変化に注目している。2022年Q1、中国大陸の半導体装置市場全体は、大陸ウェーハ工場、パッケージ・テスト工場の継続した新設/生産能力拡大による大量の設備購入の影響を受け、受注は非常に好調である。納品を見ると、Q1に全国の多くの地域で発生した大規模な新型コロナが工場の生産、物流に大きな影響を与えたが、全体的にはコントロールでき、半導体装置の市場規模は2021年Q1に比べて約二割増加した。

中国国内の設備メーカーは安定しつつ前進しているが、半導体産業チェーンの川下需要の新たな変化の傾向に於いていつまでも安定しているわけではない。簡単なロジックは、2022年の初め以来、多くのチップファウンドリーは引き続き生産能力を拡大しているにもかかわらず、実際には多くのプロジェクトがかなり前に決められ、2022年の初めまでに最終的に実施され、それには長い時間がかかった。即ち、2022年の生産能力拡大プロジェクトの多くは、実際には前の業界サイクルに於ける計画に属する。

一般的に業界は変動サイクルにあり(即ち、2022年以来のこのサイクル)、各ファウンドリーは大口顧客の長期的な受注がなければ生産能力を拡大することも、拡大することを敢えてすることもできない。然し、現在のコンシューマーエレクトロニクスの不振、車載チップの負荷の増加、半導体業界の構造的差別化を背景に、大口顧客も受注を削減するしかない。そのため、各大ファウンドリーの生産拡大は鈍化し、設備投資は低下し、川上のローカル設備工場の収入は基本的な基盤を保つことができるが、成長率は必ず予想に及ばない。このような状況は、完全に独占的な位置にあるASML(リソグラフィー装置)や新思科技(EDA)のように、それぞれの分野で絶対的な発言権を持つ設備サプライヤーにとっては大したことではない。これらのメーカーは最も核心的な技術を把握し、しかも先進的な製造プロセスの発展方向に従い、今後の3 nmか2 nmかを問わず、全てこれらのメーカーの設備を使用しなければならず、かつ代替品がないため、その交渉力が当然高くなる。

然し、中国のローカル設備サプライヤーにとっては、スタートが遅く、半導体ブームと生産拡大の東風に乗り、徐々に国産による代替を実現し、一連の厳しい問題を解决してきた。これは業界の旺盛な需要を背景に、後発参入者も成果の一部を手に入れるが、獲得する成果は大きくない(それでもローカル半導体装置メーカーは一定の進歩を遂げている)。

現在、半導体全体の需要が反転し、末端顧客の受注削減を背景に、半導体装置メーカー、特にローカル半導体装置メーカーに影響を与えることは避けられない。最悪の事態に対応する:今回の消費低迷が長引くと、半導体の川下にある他の従来型業界の需要にも影響を及ぼすことになり、末端メーカーの受注削減が続くことが予想される。この勢いが前回のサイクルで各ファンドリーによって決めた生産拡大プロジェクトの調達が全て終了するまで続けば、ローカル半導体製造装置メーカーにとっては災難となる。

 

幻想を捨てて戦闘の準備をする


チップ市場の新たな変化は、実際には世界的な経済環境(インフレ+経済成長の鈍化)の発展と符合している。このような「スタグフレーション」の環境は最初にコモディティ(原材料)市場に影響を与え、原材料の値上げブームを引き起こし、製造業の各大手産業チェーンの川中・川下は徐々に値上げの圧力に直面している。ただ、半導体業界はこの2年が回復期にあるため(低迷期は2018年Q4-2020年Q2、ちょうどムーアサイクルを終え、回復期は2020年上半期から始まる)、経済環境の影響をあまり受けていなかった。

 

世界的な半導体売上高の当四半期の前年比成長率及び世界的な半導体装置売上高の当四半期の前年比成長率

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全体的に景気サイクルにあるほか、半導体業界も新型コロナによる電子消費需要の急速な上昇や新エネルギー車や太陽光発電などの新興産業の急速な台頭による牽引作用などの要因が重なっている。これらの要素は最後に米国の制裁という火に「点火され」、供給不足、受注遅延を引き起こし、受注の奪い合いも引き起こした。これらの要因が半導体業界にもたらした影響はまだ残っているため、ここ2年ほど業界内で最も多く語られるのが「チップ不足」である。

然し、経済環境の「幽霊」は遅刻するかもしれないが、決して欠席しない。2年間の好況を経て、半導体業界は現在、需要の低迷に直面している。この変化についてAcerの陳俊聖会長は次のように懸念しており、「今Acerのサプライヤーは需要の反転を感じているが、彼ら(チップ工場)の設備サプライヤーは『まだいつものように生産し、需要の変化を感じていない』、現在、科学技術業界の川下では受注削減や在庫調整が発生し、関連の影響は在庫の復合効果によって重ね合わされ、川上の半導体工場への影響を予測するのは難しいかもしれない。」

元から言えば、ローカル半導体装置の発展の原動力は、国内半導体製造装置分野の多くのメーカーの上場、株式融資の追加とビッグファンドの投資などが十分な資金の支援をもたらしたことにある。これらの絶え間ない投資は設備製品の研究開発、検証プラットフォーム及び産業基地の建設に使用され、企業の発展を加速する。然し、現在の経済環境の不况は資本市場の株式融資の追加と投資に影響を与えるため、国家の支援は非常に重要である。中国政府はこれまで国内の半導体業界を支援してきたが、補助金や直接投資、減税などの形で一定の効果がある一方で、国家の補助金や投資を利用し、実用的なことを何もせず、リソースを浪費する「ネガティブな事例」もある。

半導体の新たな変化(需要反転)を背景に、国内の半導体産業に対する国家の支援は考え方を変えるべきで、投資側だけでなく、もっと重要なのは需要を刺激することで、ある業界関係者は冗談を言っている:「国家は二線・三線都市の消費潜在力をもう一度掘り起こし、需要側から引き上げ、産業チェーンが生き残る余地を持たせる。」これは冗談であるが、その中の考え方は正しく実行可能である。

幸いなことに、現在、国家の「第14次五カ年計画」で提出された新インフラ建設は、既に5G、ビッグデータ、新エネルギー車などの分野の発展を明確にした。これらの業界の中で新エネルギー車業界は半導体業界の発展を推進する役割は小さくない。2022年下半期から新インフラ建設が徐々に力を発揮し、その時にこのインフラ建設ブームの牽引の下で、国産半導体製造装置メーカーは新しいチャンスを迎えると予想される。

前途は明るいものではあるが、道は依然として曲がりくねっており、技術実力、生産能力供給の差は依然として存在しており、特別な重視が必要である。今後の国産設備メーカーは成熟したプロセスから局面を切り開き、市場シェアを先取りし、生産研究開発の投入を増大し、先進的なプロセスの発展方向に注目し、1つのチャンスを待ち、ムーアの法則を推進できるチャンスを待ち、国産の「突入」の良いショーを上演すると予想される。これは実現不可能なことではなく、それは当時のASMLがNikonを上回った理由である。

それで、歴史は再び繰り返されるのだろうか、それともこれは単なる幼稚な想像にすぎないのだろうか?答えを待っている!